「キセル乗車」を"発明"した意外なヤツとは? 今も悩みのタネ「不正乗車」 百年前から嘆かれていた日本人の「道徳心」

「国民道義心滅亡」嘆くほどの不正天国

 不正乗車の続発に「日本人の道徳観」を問う記事も見られます。1924(大正13)年の業界誌『交通と電気』は、近頃の不正乗客は警視庁職員、女教員、大会社の社員、大学教授に至るまで不正乗車に手を染めているとして「国民道義心滅亡」と嘆きます。

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国鉄駅のイメージ(画像:写真AC)。

 また1930(昭和5)年発行の書籍『ラッシュアワー展望』には「世界各国の鉄道営業政策を観ても、彼我に一長一短のあるのは止むを得ないとしても、乗客の公徳心、乃至(ないし)は個人的道徳観念の希薄なことは日本人が最も著しい」とまで記されています。

 これは乗客に限らず、職員もまた同様でした。1913(大正2)年の日本警察新聞には、「鉄道院が旅客の切符確認を励行した結果、無札者はかえって鉄道職員に多く不正乗車者の六割五分を占める」という趣旨のギョッとする記事があります。また路面電車やバスなど車掌が運賃を収受する乗り物では、売り上げの一部を懐に着服することも珍しくなく、事業者は身体検査を行うなどの対策に追われていたとか。

 入出場記録、購入記録が残るICカードの導入で不正乗車は大幅に減少したといわれますが、近年ではコスト削減の観点もあり、乗客を信用してあえて厳格な改札を行わない「信用乗車」の導入例があり、また乗客自らがスマホなどで入出場を記録、清算する利用形態も登場しています。

 不正乗車が蔓延すれば、正当な利用者が支払い意欲を失くして、また新たに不正に手を染めかねません。利用者を守るためにも、鉄道事業者はモラルを呼びかけるだけでなく、実効性のある対策を検討しなければならないでしょう。

【了】

【画像】まさに混沌…これが「終戦直後の東京の電車」です

Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx

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コメント

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1件のコメント

  1. 長距離の定期券は高額になるんで、やる奴が居ますが、捕まると、全期間の3倍の料金が請求され
    持っている定期は無効になってしまう筈です、
    6ヶ月定期で数百万の請求をされて驚いたなんて話がありますが、万引きでも払えばって言う連中が多いようですが、常習犯だったりするんで、対価を払わん奴は窃盗で前科をつけるしか無いんですよね対価を払わないブラック企業や顧客も考えは同じですから、同様にしてもらいたいですな