だから減便するしかない「バスの2024年問題」市民の足直撃 働き方改革 カギ握る“1時間の差”

人手不足は10年前から分かっていた

 ここまで改正の直接的な影響の代表例を挙げました。ただ勤務形態は事業者や営業所によって異なり影響も様々ですし、深刻な乗務員不足に上乗せして改正への対応を迫られるので、言葉では説明しきれない大変さが予想されます。かといって働き方改革を後戻りさせるわけにいきません。また結果として乗務員の所得が減ってしまっては本末転倒です。

 バス事業には「繁閑の差」が大きいという特徴があります。しかも、路線バスは平日の朝夕、高速バスは週末という風に忙しいタイミングが異なります。社内の営業所どうしの応援体制に加え、貸切バス事業者が高速バスの応援に入る「貸切バス型管理の受委託」制度の活用など、複数の事業者間で限られたリソースを上手に活用するケースが増えるでしょう。

 2014年、筆者(成定竜一:高速バスマーケティング研究所代表)が求人サービス「バスドライバーnavi(どらなび)」の立ち上げに携わってから10年が経ちます。つまり乗務員不足は10年前からわかっていたわけです。裏返せば、各事業者や「どらなび」の取り組みは、一定の成果を上げてはいても、抜本的に状況を改善できていないとも言えます。繰り返しますが、国全体で労働力が大きく減少しているためです。

 昨年から路線バスの運賃改定が相次ぎ、乗務員の待遇改善も進みつつあります。しかし、過去30年ずっと横這いか下降気味だった待遇を、人手不足に陥って慌てて引き上げるという姿は、この国のほとんどの業種に当てはまるはずです。

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大阪の金剛バス。2024年問題を前に、バス事業そのものから撤退したのも記憶に新しい(画像:写真AC)。

 働き方改革も待遇改善も、それ以外の求人の取り組みも、当然実施すべきことですが、異業種も同じ努力をするので乗務員不足解消の切り札にはなりません。かといって乗務員不足に引きずられ、事業サイズを単純に縮小してしまえば、地域の交通網を維持できないばかりか、事業者の収益も縮小し、さらなる賃上げが困難になり、人手不足が進行する――という悪循環が始まります。

 乗務員不足は、究極的には、路線バス事業における官民の役割分担などバス事業のビジネスモデルを見直して収益性を高め、その収益を人材確保に回すサイクル、言い換えれば筋肉質なバス事業を構築することでしか解消しない問題なのです。

【了】

【規模がスゴ…】バスが一気に「25%以上減便」する都市とは?(画像)

Writer: 成定竜一(高速バスマーケティング研究所代表)

1972年兵庫県生まれ。早大商卒。楽天バスサービス取締役などを経て2011年、高速バスマーケティング研究所設立。全国のバス会社にコンサルティングを実施。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員など歴任。新聞、テレビなどでコメント多数。

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