駅からゴミ箱が消えるとどうなる? かつての鉄道はゴミだらけ! 信じ難い“マナー”も…歴史は繰り返す?

さすがに「窓からポイ捨て」は看過できない

 座席下にゴミを置くことが推奨された、もうひとつの理由はもっと深刻です。それは置き場がないと、窓から投げ捨てる人が少なくなかったからです。有名な話ですが、夏目漱石の『三四郎』には、三四郎が空になった弁当を窓から投げ捨てる場面があります。

 これは1908(明治41)年に連載された小説ですが、1955(昭和30)年発行の『最新交通道徳の詳解』という本には「車窓から物を投げすてるな」という項があります。今となっては信じられない話ですが、投げ捨てられた空びんが線路保守作業員や通行人、対向列車の乗客にぶつかって負傷させる事件は珍しくなかったそうです。

 そこで同書は「どうしても車内で不要になった紙屑や瓶、土瓶等の廃物は車内の適当な所にまとめておくのがよい。そうしてできる限り下車するとき家に持ち帰るのがよい」とマナーを説きました。

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列車内に設けられたゴミ入れ(画像:写真AC)。

 こうして見てきたように、日本人も最初から清掃マナーを身に付けていたわけではありません。所得・生活水準の向上や粘り強い啓発、そしてゴミ箱などの設備拡充が相まって、定着していったのです。

 ただし社会環境が変わり、街角からゴミ箱が消えていくと、日本人の習慣は徐々に元に戻ってしまう可能性もあります。ゴミ箱の撤去は本当にテロ対策や従業員の安全確保が理由なのか、あるいはコスト削減が狙いなのか、本当のことは分かりません。しかし間違いなく言えるのは、人々の行動を変えようとすれば、どこか別のところに思わぬ影響が出てくるということです。

【了】

【知ってる?】激レア「ゴミを運ぶ」貨物列車(写真&路線図)

Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx

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