ロシアで「見世物」にされる期待の西側戦車 なぜ? ドローンの猛威に顕在化するウクライナの“呪縛”
浸み込んだ旧ソ連教義が扱いの足枷に
視点を変えると、西側戦車が目立たない理由は2点考えられます。1点目はドローンを恐れてというより、春から夏にかけて予想されるロシア軍の攻勢に備え、後方で再編成と戦術の立て直しをしているということです。アメリカのバイデン政権による支援予算の遅れも影響しています。
2点目は、長くウクライナ軍に染み付いた旧ソ連軍系教義の呪縛です。西側機甲関係者のあいだでは、ウクライナ軍の運用のまずさが指摘されています。
アメリカのシンクタンクであるフォーキャスト・インターナショナル・ウェポンズ・グループは、ハードのスペックだけが現代の機甲戦の鍵ではないことを強調しています。どの国でも兵器と運用、教義は整合されるべきもので、西側戦車は西側の機甲理論に基づいて造られており、ウクライナ軍の指揮官や乗員が旧ソ連流の教義に従って西側兵器システムを使用しても効果は期待できず、最悪悲惨なことにもなりかねないと指摘しています。
M1A1戦車やM2A2歩兵戦闘車など西側装備品で編成されたウクライナ陸軍第47機械化旅団は、3月上旬にアヴディウカとベルディシ周辺の戦闘に参加しましたが、3月下旬までに4両のM1A1、4両のM2A2、2両の装甲工兵車両を失いました。ウクライナに供与されたM1の12.9%が1回の戦闘で失われたことになります。
この結果はウクライナ軍が依然としてロシア軍と同じ旧ソ連流教義のままであり、西側の機甲理論が受け入れられていないことを示しています。主砲の口径が何ミリであろうと複合装甲が何であろうと、カタログスペックはそのまま戦闘力を意味しません。M1やレオパルト2のスペックを最大限発揮するには、旧ソ連流教義から西側教義に切り替えなければなりませんが、長年浸み込んだ教義を切り替えるのは簡単なことではありません。
鹵獲されたM1やレオパルト2は恰好の収蔵品として、クビンカ戦車博物館に送られることになりそうです。我々が見物できる日はあるのでしょうか。
【了】
Writer: 月刊PANZER編集部
1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。
重すぎる車体ゆえ悪路でも大馬力で無理やり動く。変な日本語