「史上最速の飛行機」更新なるか アメリカでロールアウトした超速テスト機の全貌 NY―パリ=あり得ないくらい早く!?

まずは自力で離着陸できなきゃ

 ただ、SR-71の速度記録を更新するという野心的な挑戦に関しては、さまざまな技術的課題を克服しなければなりません。特に重要なのが、低速と高速の両方に対応できるエンジンの開発です。

 単にSR-71の速度を超えるだけならば、1959年に製作された試験用のロケット機X-15や、宇宙往還機「スペースシャトル」などで達成済みです。しかし「クォーターホース」は、SR-71のように自力で離着陸可能な飛行機を目指しています。

 具体的には「ストレート15/25kmコース」という条件で計測が行われます。これは、空中に15kmから25kmの任意の距離で直線コースを設定し、コースの両端から1回ずつ計2回飛行、それら所要時間から平均速度を算出するというものであり、2回目の飛行は1回目を終えたら着陸せず、1時間以内に行うとも規定されています。

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「クォーターホースMk.1」の前モデルである地上試験用の「クォーターホースMk.0」(画像:ヘルメウス)。

 この自力での離陸と高速度という2つの課題を解決するため、ヘルメウス社はコンバインドサイクルエンジン「キメラ」を独自開発する計画です。コンバインドサイクルエンジンとは、超音速飛行に適したラムジェットと、低速飛行に適したターボジェットの機能を組み合わせたものであり、ヘルメウス社では前出したF-5戦闘機搭載のJ85ターボジェットを原型に開発するとしています。

 また同社では、F-15戦闘機が搭載するF100ターボファンエンジンを原型にした、より強力なコンバインドサイクルエンジン「キメラ2」も企画しており、こちらではマッハ5の極超音速を狙う模様です。

「クォーターホース」シリーズおよび「キメラ」コンバインドエンジンは、極超音速飛行という航空技術の新たなフロンティアを切り開く挑戦といえるでしょう。

 なお、ヘルメウス社では、今後数年間にわたって行われる飛行試験の結果を踏まえて、極超音速軍用ドローン「ダークホース」を開発する構想です。他方でニューヨーク~パリ間を90分で結ぶ極超音速旅客機「ハルシオン」というビジョンまで発表していることから、それらのファーストステップといえる「クォーターホースMk.1」の実機完成と試験飛行の成否には、世界の航空関係者が注目している模様です。

【了】

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Writer: 関 賢太郎(航空軍事評論家)

1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。

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