首相キモ入りの“魔改造”!? 残念だった「世界初のジェット旅客機」が「世界初のジェット対潜哨戒機」に変わるまで

政治問題にまで発展した「ニムロッド」の最期

 2006年9月2日、作戦飛行中の「ニムロッド」が空中給油を受けた直後に燃料漏れが発生し火災を起こして墜落。機体は乗員14名とともに失われました。事故の原因は燃料タンクから漏れた燃料が高温の空気パイプに触れた時に着火し燃え広がり、火災が発生したと結論付けられました。

 そして、この事故の調査報告書が発表される1か月前の2007年11月5日、今度は、もう一機の「ニムロッド」が今度は空中給油中に燃料漏れを起こします。この機体は無線で緊急事態発生を宣言する「メイデイ」を発信した後、なんとか着陸することが出来ました。乗員は全員が無事でしたが、事態を重く見た英国防省は「ニムロッド」の空中給油を停止する措置を講じます。

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「ニムロッド」(細谷泰正撮影)。

 「ニムロッド」の老朽化問題は当時すでに指摘されており、一連の事故は火に油を注ぐ形になってしまいました。そして、「英国防省は原子力潜水艦と空母へ優先的に予算を配分するため『ニムロッド』の補修を先送りしていた」と報道されたことで、一気に政治問題に発展してしまったのです。

 当時、イギリス空軍では老朽化していた「ニムロッド」MR2の後継機として「ニムロッド」MRA4を開発して2003年から就役させる計画を進めていました。「ニムロッド」MRA4は最新の装備と低燃費エンジン、ロールス・ロイスBR710を搭載した機体でしたが、開発の遅延とコストの増加が問題となっていました。しかし、老朽化した「ニムロッド」はこの頃どんどん退役が進んでいたのです。

 そして、最後の「ニムロッド」が退役した2010年、英国防省は「ニムロッド」MRA4計画の中止を発表。後継機の導入を前に「ニムロッド」全機が退役することになりました。

 こうして1949年に初めて空を飛び世界初のジェット旅客機として登場した「コメット」、その子孫として生まれた世界初の対潜哨戒機「ニムロッド」の現役をもって、「コメット」一族の歴史が終止符を打たれたというわけです。

「ニムロッド」はスマートな「コメット」とは大きく形が変化しましたが、完成機を安易に導入する代わりに、国内開発機をとことん活用する方法を選択した当時のイギリス政府に敬意を表したいと筆者は考えています。

【了】

【写真】面影はどこに… 「ニムロッド」と「コメット」の全貌比較

Writer: 細谷泰正(航空評論家/元AOPA JAPAN理事)

航空評論家、各国の航空行政、航空機研究が専門。日本オーナーパイロット協会(AOPA-JAPAN)元理事

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