交通系ICカードより「タッチ決済」ゴリ押しでいいの? 「外国人にも便利」は本当か 海外の“現実”

日本の交通系ICカードと似て非なるオイスターカード

 日本の交通系ICカードと比較されがちなオイスターカードですが、そのオイスターカードはとても狭いロンドンの首都圏でしか使うことができないのは、あまり知られていません。例えば、ロンドンの主要駅のひとつ、ビクトリア駅を出発してから25kmも走るとオイスターカードの圏外になってしまうのです。

 それは車掌も心得ていて、オイスターカードの圏外に突入したとたん、車内検札にやってきて、オイスターカードしか持たずに乗り続けている客を一網打尽に罰金刑に処して歩くのです。日本の首都圏でいえば、品川駅から東海道線に乗っていて、横浜駅を過ぎたとたんに罰金刑をくらうイメージです。

 そんな狭い区間でしか使えないオイスターカードとは比較にならないほど、日本の交通系ICカードは、全国津々浦々の公共交通機関で使えるサービスです。

 ましてや、日本の交通系ICカードは乗りものだけでなく、コンビニやスーパーなどの商店から自動販売機、飲食店、役所などでの支払いでも使えるのです。クレジットカードやデビットカードはお断りでも、交通系ICカードは使えるというケースも多々あります。

 ここまで浸透している日本の交通系ICカードですから、駅の改札やバスにタッチ決済の機械を設置しただけで、一気にタッチ決済に軍配が上がる、とは行かないのではないでしょうか。

 にもかかわらず、交通系ICカードを廃して、タッチ決済へ移行する流れも出てきました。

費用が高い交通系IC―タッチ決済ならば万事解決、なのか?

 交通系ICカードの読み取り端末の更新に多額の費用がかかるという理由から、熊本の路線バス5社と熊本電鉄では、2024年内に交通系ICカードのサービスを停止(くまモンのICカードを除く)した後、タッチ決済へ全面的に移行することを発表しています。熊本市電も1年遅れで追随する見込みです。

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熊本の路線バス(画像:photolibrary)。

 これに対し、地元の熊本日日新聞がアンケートを実施し、利用者の抵抗が強いことを浮彫りにしています。JR線などとの相互利用を含めた利便性の低下を指摘する声が多かったといいます。一方で、全国交通系ICカードの導入・更新費用が高すぎるとして、廃止に理解を示す交通事業者の声も伝えています。

 世界的な技術の流れに遅れないように、タッチ決済に移行していくことは確かに重要です。また、訪日外国人の利便性を考えることも必要です。しかし、これだけ多岐に渡って普及している便利な交通系ICカードを、一気に過去のものにするのは、難しいのではないでしょうか。

 熊本の一方的な交通系ICカードの廃止はいささか強引にも思えますが、その背景に高い「更新費」があることも浮彫りになりました。交通系ICカードは高い、タッチ決済があるからいい、との理由で、生活に根付いたシステムが急速に損なわれていく流れにならないことを願うばかりです。

【了】

【交通系ICオワタ…】ロンドンでタッチ決済を導入した「結果」(画像)

Writer: 赤川薫(アーティスト・鉄道ジャーナリスト)

アーティストとして米CNN、英The Guardian、独Deutsche Welle、英BBC Radioなどで紹介・掲載される一方、鉄道ジャーナリストとして日本のみならず英国の鉄道雑誌にも執筆。欧州各国、特に英国の鉄道界に広い人脈を持つ。慶応義塾大学文学部卒業後、ロンドン大学SOAS修士号。

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