アメリカ屈指の巨大造船所「韓国メーカー」が買収へ 米海軍長官がほくそ笑んでいるワケ
内航船と官公庁船に特化していたが…
フィリー造船所は現在、ノルウェーの産業投資会社アケルの傘下で、タンカーやコンテナ船などの商船と練習船のような官公庁船を建造しています。敷地内には2本の乾ドックがありますが、建造は第4ドック(長さ330m、幅45m)で行われており、隣の第5ドックは艤装や海上公試のためのバースになっています。
1997年の設立からこれまでの商船の建造実績はコンテナ船6隻、プロダクトタンカー(原油以外の石油製品用タンカー)22隻、アフラマックスタンカー(中型の原油タンカー)2隻の計30隻。先に述べたとおり、アメリカの国内航路で用いられる船舶は国内の造船所で建造することを義務付ける「ジョーンズ法」に準拠している必要があるため、遠く離れた太平洋上のハワイやグアムに向かうコンテナ船も同造船所が手掛けています。
なお、2022年11月には、さらに3隻の3600TEU型LNG(液化天然ガス)燃料コンテナ船をマトソンナビゲーションカンパニーから受注。2024年6月現在はこれらの建造に注力しています。
官公庁船に関しては、海事大学の練習船と非常時の人道/災害救助船を兼ねたアメリカ運輸省海事局(MARAD)の国家安全保障多目的船(NSMV)5隻を受注。2023年9月には第1船目となるニューヨーク州立ニューヨーク海事大学向けの「エンパイア・ステートVII」が引き渡されました。
洋上風力発電所の建設に投入される根固石設置船(SRIV)の受注も確保しており、2023年7月に行われた起工式にはジョー・バイデン大統領も出席しています。
これらを鑑みる限りでは、安定して受注を積み重ねているように感じられますが、フィリー造船所の経営は不安定な状況が続いています。たとえば2023年通期決算での純損失は6790万ドル(日本で約108億6400万円)と、2022年通期決算の純損失1170万ドル(約18億7200万円)から増大しています。
そもそもアメリカ国内輸送に限定した造船市場の規模は極めて小さく、建造時のコストも高くなる一方、外航商船に関しては中国、韓国、日本の造船所が現状、シェアのほとんどを握っており、参入する余地がないような状況です。
特に中国の造船所における2023年の年間建造量は4232万重量トンで、世界シェアは50%。ちなみに、受注量では7120万重量トンもあり、こちらのシェア率は67%にも膨らみます。特にバラ積み運搬船は世界全体の8割を占め、原油タンカーも7割、コンテナ船も5割といずれも高いシェアを握っています。
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