アメリカ屈指の巨大造船所「韓国メーカー」が買収へ 米海軍長官がほくそ笑んでいるワケ
韓国企業のノウハウと先端技術で立ち直るか?
アメリカ海軍のカルロス・デル・トロ長官は、今回の韓国ハンファグループのフィリー造船所買収に先立ち「過去30年間、中国の総合的な海洋力が飛躍的に成長する一方で、我が国は急激に衰退した」との認識を示しています。
「日本や韓国を含む海外の最も親密な同盟国と提携する機運が高まっている。世界でトップクラスの造船会社を誘致してアメリカ国内に子会社を設立させ、民間造船所に投資させることで、造船業を近代化し能力拡大を図るとともに、より健全で競争力のある雇用を創出しなければならない」と、長官は海外投資を呼び込む方針を示していました。
なお、すでにハンファ・システムズでは無人海上システムや船舶用レーダー、有無人連携(MUM-T)作戦用センサーなどを開発していることから、艦艇向けの各種技術についてはフィリー造船所を足掛かりにアメリカ市場へアプローチする方針です。
一方、ハンファオーシャンは、カタールの国営エネルギー会社カタールエナジーが進めていたLNG船の大規模建造プロジェクトで25隻の受注を獲得し同分野で存在感を見せるほか、艦艇建造では大宇時代も含めれば韓国海軍向けの世宗大王(セジョンデワン)級駆逐艦や島山安昌浩(トサンアンチャンホ)級潜水艦、イギリス海軍のタイド型給油艦を手掛けた実績があります。さらにポーランドやカナダにも潜水艦の売り込みをかけているとのこと。
よって、これまでの造船事業で培ったノウハウをフィリー造船所へとフィードバックすることで、環境規制の対応に向けた代替船建造など拡大が見込まれるアメリカの新造船需要にこたえていくそうです。
前出のデル・トロ長官は、2024年2月の韓国訪問時、HD現代重工業の蔚山造船所やハンファオーシャンの巨済事業所の視察を行った際に「業界のグローバル・スタンダードを確立している」と両社を高く評価。アメリカ進出についても強い関心を得られたとして、「両社の高い技術とノウハウ、そして最先端のベスト・プラクティスがアメリカの地で実現することを考えると、これほど楽しみなことはない」と述べていました。
ちなみに、韓国取引所(韓国証券取引所)の告示によれば、フィリー造船の株式の取得割合についてはハンファ・システムズが60%、ハンファオーシャンが40%なのだとか。なお、取得予定は2024年11月中となっています。
果たしてこれがアメリカの造船復活の一手になるのか、要注目です。
【了】
Writer: 深水千翔(海事ライター)
1988年生まれ。大学卒業後、防衛専門紙を経て日本海事新聞社の記者として造船所や舶用メーカー、防衛関連の取材を担当。現在はフリーランスの記者として活動中。
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