なぜウクライナにF-16引き渡されない? 最新ステルス戦闘機がもたらした “大影響”とは

もし見切り発車しても問題は残ったまま

 F-35はすでに戦闘機として実用化され量産中ですが、それと並行して性能向上型の開発が進行中で、新規生産は搭載コンピューターのハードウェアを一新した性能向上型「TR-3(テクニカルリフレッシュ3)」に切り替えられています。しかしTR-3を動作させるための改良型ソフトウェア「ブロック4」の実証が遅れており、すでに100機近いF-35がハードウェアだけ完成した状態で保管され、新しいソフトウェアのインストールを待っている状態となっています。

 この事態に対し、まず訓練は可能ですが実戦投入は不可能な「機能限定型ブロック4」の開発を急ぎ、とり急ぎ各国空軍への引き渡し停止を解除し、後に作戦能力を持った正規型のブロック4へアップグレードするという計画が立案されています。

 機能限定型ブロック4の完成は7月を見込んでいますが、本記事執筆時点(2024年7月上旬)で開発完了したという情報はまだなく、8~9月頃になるのではないかと目されます。ただ、正規型ブロック4は来年以降になってしまうと見積もられているため、さらなる遅延も十分にありえます。なお、F-35 TR-3は既存の作戦能力を持ったソフトウェアである「ブロック3F」は動作しません。

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アメリカ、デンマーク、オランダ、3か国のF-35A戦闘機(画像:アメリカ空軍)。

 機能限定型ブロック4の完成によってF-35の引き渡しは再開できるでしょうが、ロッキード・マーティン社では月20機、すなわち1営業日あたりおよそ1機の割合で納入できると予想しています。とはいえ保管状態の機体が約100機にも達し、新造機も続々と完成しているため、遅れをすべて解消するには1年はかかると考えられます。

 現状、前出した4か国のF-16が、いつ、どのようなスケジュールでウクライナ空軍へ引き渡されるのか明らかになっていません。戦闘機の導入はウクライナの独立と自由を守るために不可欠な要素であるため、一刻も早い供与が望まれます。

 ただ、その一方でF-35納入遅延の影響は深刻であり、当面大きな課題として残り続けるのではないかと予想されます。

【了】

【イメージ通り?】これがウクライナ軍みたいな迷彩をまとったF-16戦闘機です(写真)

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Writer: 関 賢太郎(航空軍事評論家)

1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。

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