待望のF-16がウクライナ軍へ実戦参加も… 手放しで喜べない理由 ロシア軍も対抗措置?

優れた多用途性の獲得は今後の課題か

 具体的には、低空を飛来する巡航ミサイルやドローンに対しては、既存の防空システムに加え、新たな対応能力を提供するだけの性能を持っています。

 特に期待されるのは、ロシア空軍の戦闘爆撃機Su-34による滑空爆弾を用いた対地攻撃への対抗手段としてです。F-16は、従来のウクライナ空軍機にはなかった自律誘導型のAIM-120「アムラーム」空対空ミサイルを運用できる能力があり、高い空中戦闘能力を有しているため、ロシア空軍への有力な対抗手段となるでしょう。

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2024年8月4日、F-16の運用開始式典で上空をフライパスするF-16戦闘機。右側に立つのはウクライナのゼレンスキー大統領(画像:ウクライナ大統領府)。

 しかし、F-16の運用には高度な技術と経験が求められます。F-16は多用途に使える戦闘機、いわゆる「マルチロールファイター」ですが、パイロットをその多用途性に適応させるには、長きにわたるトレーニングが必要です。ウクライナのパイロットたちがF-16への機種転換および習熟を行うために使えた訓練期間はわずか1年に過ぎず、このなかでF-16の全能力を発揮できるだけの技術を習得するのは現実的ではありません。戦闘機の真価を発揮するための鍵は訓練の質と量であるため、今後も人材の育成は大きな課題となるでしょう。

 加えて、整備や補給の体制も整える必要があり、これらの課題を克服するためには国際的な支援が不可欠です。

 ロシア側もF-16の導入に対して対策を講じることが予想されます。高性能なSu-35戦闘機による護衛の強化や、新たな防空システムの戦術など、ウクライナの空軍力に対抗する手段を講じるでしょう。したがって、F-16がどの程度戦闘に寄与できるのかは、今後の戦況や両軍の対応次第と言えます。

 とはいえ、F-16の運用がウクライナで始まったことは同国にとって大きな前進であり、戦闘能力の向上に寄与することは間違いありません。ウクライナの防衛力強化に向けた「一歩」として、F-16の役割は今後も注目されるべきだと筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)は考えます。

【了】

【エッ、ない!?】他国の戦闘機なら見かけるものが全くない「ウクライナのF-16」(写真)

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Writer: 関 賢太郎(航空軍事評論家)

1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。

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