東急「新空港線」に勝ち目はあるのか “羽田アクセス線”に宣戦布告? 蒲蒲接続の熱意を探る

東急電鉄が国に対し、「新空港線」の営業構想の認定を申請しました。東急多摩川線を途中から地下化して京急蒲田駅付近まで延伸する計画です。しかしそこには、東横線直通の課題やJR東日本が構想する強大なライバルも存在。東急新空港線に「勝ち目」はあるのでしょうか。

新空港線が太刀打ちできない「強大なライバル」構想

 新空港線には、JR東日本羽田空港アクセス線の西山手ルートという強大なライバルがいます。現在建設中の東山手ルートと臨海部ルートは2031年度の開業を予定していますが、連絡線整備が必要な西山手ルートの見通しは立っていません。ただ新空港線はさらに先、2040年度開業予定なので、そう変わらない可能性もあります。

 JR東日本の構想では、新宿~羽田空港間は東京モノレール経由で46分、京急経由で41分のところ西山手ルートは23分で結ぶとしており、渋谷であれば20分を割るでしょう。京急蒲田で乗り換えが必要な新空港線では太刀打ちできません。

 では、どの区間であれば西山手ルートに勝てるでしょうか。前述の自由が丘駅は羽田空港まで約30分です。自由が丘~渋谷駅間は特急で約11分ですから、JRへの乗り換え時間を考慮すると、西山手ルートに勝てそうです。

 同様に田園調布や武蔵小杉、元住吉といった拠点駅も新空港線経由が優位です。つまり東急は渋谷、新宿、池袋からの空港アクセス需要ではなく、あくまで自社線からのアクセス向上を狙っていると言えるでしょう。

 なお、構想の前提となる2016年の交通政策審議会答申第198号は、新空港線について「東急東横線、東京メトロ副都心線、東武東上本線、西武池袋線との広域鉄道ネットワークを通じて、国際競争力強化の拠点である新宿、渋谷、池袋等や東京都北西部・埼玉県南西部と羽田空港とのアクセス利便性の向上に寄与する」としています。

 つまり、今回の営業構想には明記されていませんが、新空港線の東横線直通列車は渋谷止まりではなく、副都心線、東武線、西武線方面への直通を視野に入れています。しかし、広域鉄道ネットワークの観点では西山手ルートへの対抗は困難と思われます。

 開業時の運行形態がどうなるのか、開業は15年も先の話であり、西山手ルートの見通しが立っていない以上、現時点では何とも言えません。それでも今回の営業構想からは、東急が東急新横浜線による東海道新幹線との接続に続き、羽田空港アクセスを改善することで、沿線価値を向上させたいという熱意が伝わってきます。

【地図】東急とJR東日本の新線計画ルートを見る

Writer:

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx

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