ぜーんぶ「エンジン逆っ!」 バイクも有名な“名門航空メーカー”を、なぜトルコの新興勢力が買収したのか
トルコの軍需企業バイカルが、ユニークな設計を特徴とするビジネス機などを手掛けるイタリアの名門航空機メーカー「ピアッジオ」を買収します。どういった狙いがあるのでしょうか。
急成長を遂げたバイカル、ピアッジオ買収の狙いは?
バイカルもこうした中小企業の一つで、2000年代の参入当初は手投げ式の小型機の開発と製造を行っていました。そのような同社をトルコの防衛産業を牽引する軍需企業まで引き上げたのが、2010年代に開発した、兵装の搭載も可能な「バイラクタルTB2」です。ロシアのウクライナ侵攻などでその有用性を実証したことから、2023年12月の時点で600機以上が製造されるヒット作となり、同社の急成長の原動力となったわけです。

バイカルに買収されるピアッジオ・エアロ・インダストリーズは、主にプロペラを機体後部に置くプッシャー(推進式)のターボプロップビジネス機の開発と製造を手がけてきました。
ピアッジオ・エアロ・インダストリーズの手がけるターボプロップビジネス機P.180「アヴァンティ」は「プッシャー式」のエンジン配置のほか、胴体最前部に「カナード」とよばれる先翼、胴体やや後部に主翼、最後部に水平・垂直尾翼といった3対の翼配置を備えたユニークな設計と高速性能が特徴です。
しかしこの機体は、一時期は好調なセールスを記録したものの、ビジネスジェットと比べて大きな優位性を示せなかったことからセールスには繋がらず、ピアッジオ・エアロ・インダストリーズの業績も低迷します。
その後、複数の企業の傘下に入り命脈を繋いできましたが、2018年12月からはイタリア政府が任命した臨時委員の管理下に置かれ、2020年2月に売却の方針が示されていました。
事業売却は入札方式で行なわれ、バイカルは競争相手よりも高額で落札しています。バイカルの公式Webサイトの予備契約締結のお知らせにはターボプロップビジネス機の画像が使われていますが、売れ行きの芳しくないターボプロップビジネス機を今さらバイカルが欲しがるとは筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)には思えません。
ピアッジオ・エアロ・インダストリーズは2000年代半ばに、ピアッジオをベースにしたUAS P.1HH「ハマーヘッド」とその改良型P.2HHを試作しています。ビジネス機をベースにしているため、P.1HHは速度性能と航続性能が高く、ピアッジオ・エアロ・インダストリーズの経営破綻によりキャンセルされてしまいましたが、一時はイタリア空軍へ偵察機としての採用が決まっていました。
おそらくバイカルはP.1HHとP.2HHを自社のラインナップに加えると共に、優れたUASを開発できるピアッジオ・エアロ・インダストリーズの技術力と、その製造基盤を狙って買収したものと思われます。
Writer: 竹内 修(航空ジャーナリスト)
海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。
コメント