駅のエスカレーター「両側立ち」は本当に最善か? 「元祖・片側立ち」の街が得た“結論”とは カギは自由と寛容

駅では、エスカレーターは歩かず両側に立つよう呼びかけられており、条例を定める自治体まであります。エスカレーターの「片側立ち」のルーツは英国ロンドン地下鉄といわれていますが、そこでは、「片側立ち」「両側立ち」の安全性や効率性の実験が行われていました。

両側立ちは本当に安全!?

 ロンドン交通局の実験結果では安全面で有意差が見られなかったということですが、両側立ちは本当に安全なのでしょうか。

 個人的には、両側にビッシリ立って先頭の人が転んだ場合に恐ろしい将棋倒しにならないのだろうかと、いつもリスクを感じてしまいます。

 実際、息子が2歳くらいだった時、小さな手を引いて自分の前に立たせて乗っていたところ、エスカレーターの降り口で息子にぐずられてもたつき、後ろの人々が機転を利かせて空いている反対側へすっと退避して追い抜いて行ってくれて助かったことが何度もあります。

 もし反対側に人が立っていて避けるスペースがなかったとしたら、ロンドンの高速エスカレーターでどんどん運ばれてくる後続の人たちが小さな息子の上に将棋倒しになって、圧死する大きな事故になっていたのではないか――と想像するだけで今でも冷や汗をかきます。

 香港の地下鉄エスカレーターで両側立ちを導入してから7か月間で転倒事故が12%減になったというデータがありますが(ロンドン交通局による)、確かに、歩かないことで転倒事故は減るかもしれません。しかし、両側に立たせることで逃げ道がなくなり、いざ事故が起きた時に被害が大きくなるリスクはないのか危惧していただけに、ロンドン交通局の両側立ち廃止のニュースは、小さな子を持つ親としては朗報でした。

 最後に、ロンドン交通局の実験結果を受けて、18世紀から続く名門エチケット指導会社デブレッツの公式サイトに「エスカレーターのエチケット」が掲載されました。

 そこには、エスカレーターを駆け上がりたい人の自由を尊重して、「右立ち、左空け」を守ること、スーツケースなども右に寄せること、などが書かれているほか、「ベビーカーや小さなお子さんを連れている方や、様々な理由で不自由がある方には絶対に後ろからプレッシャーを与えず、寛容な態度で接すること」と記されています。

 自由を徹底的に主張しても、寛容さをもって困っている人には紳士淑女として振る舞うこと。これこそが、「片側立ち」発祥の地・ロンドンで今、推奨されていることのようです。

【写真】実証実験の期間に「歩かずに両側に立って」と呼びかける長ーいエスカレーター

Writer:

アーティストとして米CNN、英The Guardian、独Deutsche Welle、英BBC Radioなどで紹介・掲載される一方、鉄道ジャーナリストとして日本のみならず英国の鉄道雑誌にも執筆。欧州各国、特に英国の鉄道界に広い人脈を持つ。慶応義塾大学文学部卒業後、ロンドン大学SOAS修士号。

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コメント

5件のコメント

  1. じゃあ歩いて転んで怪我すればいいよ

  2. 日本の場合はエスカレーターと階段が併用されているのが多いので、駆け上がりたいなら階段を使うべき。

    紳士ならわざわざ狭いエスカレーターを選ぶこともないでしょう。

  3. 寝言ですか?

  4. エスカレーターの両側に立っていたら将棋倒しを防げなくて、歩かせれば防げる?まずつまずかないことが大事では。歩いた方がつまずくリスクは増える。何のために手すりがあるの?エスカレーターは普通の階段より段差大きいことくらい知ってますよね。ロンドンからとやかく言われても説得力ないよ。なんで乗りものニュースがこんな駄文使うの?見損なったよ。

  5. 右側を開けておくために、多くの人が左側の列に並んでしまう。その間に次の列車が到着してさらに左側の待ち行列が長くなる というシーンをよく見かけます。また、これが嫌で右側に乗ると後ろを忖度して歩いてしまう という人が多いのではないでしょうか?

    交通需要が少ない場合の右開けはもともとグッドマナーとして始まったものだと思います。(右側を急ぐ人の安全マナーは必要ですが)

    一方、左側に待ち行列ができるような交通需要がある場合は、右にも分散して乗ることが効率的だということを社会的なコンセンサスにするような啓蒙策があるように思います。