米空母を強くしたのは「洋上でYouTube見られるぞ」!? それが意味するものとは 自衛隊も導入する?
海上交通の自由な流れを保護する名目で、フーシ派の拠点を爆撃したアメリカ海兵隊のF-35C戦闘機。同機の初陣を支えたのは、母艦の「リンカーン」が洋上でも、高速インターネットが使えることでした。
機密情報は大丈夫なの?
気になるのが商用衛星を使うことによるサイバーセキュリティです。SEA2のセキュリティは公表されていませんが、暗号化された機密データを処理するように設計された特定のアプリケーションが、すでに存在しているといいます。例えSEA2が機密情報を扱えないとしても、通信の大半は非機密情報ですので、大型艦では通信容量を確保する上で大きなメリットになります。

SEA2は艦隊司令や艦長の裁量で切断できます。「リンカーン」が紅海の作戦ゾーンに入った時、メールのトラフィックも艦内Wi-Fiもすべてオフにされました。この瞬間に、全乗組員が外界から切り離され「戦闘モード」に切り替わるのです。
紅海での作戦時、「リンカーン」にはF-35Cが10機、約5000人が乗り組んでいたとされます。SEA2の外洋航行中の通信速度は、ダウンロードが毎秒1ギガバイト、アップロードが200メガバイト。5か月半の航海中に780テラバイトのデータが転送されたそうです。実際の運用では、5000人全員が同時に使うことはありませんので、ピーク時の接続人数は数百人から1000人程度と推定され、この場合1人あたり毎秒数メガバイトから10メガバイトの速度が確保でき、日常的な業務や軽い娯楽には十分対応可能と考えられます。
「リンカーン」は2024年の実戦を含む作戦行動で、制約はあるにせよ本国と同等レベルのネット環境を提供し、艦載機の運用や船務業務の効率改善が見られました。艦長はSEA2プロジェクトが効果ありと報告しています。現在アメリカ海軍はその効果を検証しており、将来は艦隊に広く展開していく方針とされています。
ちなみに日本の海上自衛隊でも「スターリンクMARITIME」を練習艦に導入しました。今後3年間で9割の艦船に拡大される予定で、今のところ乗組員の福利厚生向上策とされていますが、将来はアメリカ海軍と同様に、それ以上の効果を発揮するかもしれません。
Writer: 月刊PANZER編集部
1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。
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