「ガンダム」で“大気圏突入能力持ち”のモビルスーツ、なぜ超少数派? 無駄なのか有効なのか
『機動戦士ガンダム』シリーズには人型機動兵器「モビルスーツ」が数多く登場しますが、そのうち、宇宙空間から地上に降下する大気圏突入能力を有するのは一部だけです。なぜなのでしょうか。
ジオン軍脅威の技術を恐れた対策?
そもそもガンダムの開発は一年戦争前から開始されていたと考えられます。「ガンダムセンチュリー」などでは、ガンダムなどの「RX計画」は「0070年代後半」に開始されたとされ、ガンダムは0078年から開発が開始されたとされています。だからRX-78という形式番号なのでしょう。

つまり、一年戦争開戦前から「地上にいるジオン軍」を攻撃するのにしか役立たない「大気圏突入能力」を持たせていたということです。「RX計画」でも、装甲材が同じガンタンクやガンキャノンには、そのような能力はありません。3機が一体的な戦術を行うのが「V作戦」の構想ですから、ガンキャノン開発までには「大気圏突入能力」はなかったものの、ガンダム開発時で必要と前提が変わったということです。
「機動戦士ガンダムMSVコレクションファイル宇宙編」によると、ジオン軍で大気圏突入・離脱能力を有するザンジバル級機動巡洋艦の就役は0076年6月とのことです。連邦が諜報機関によりこの情報を事前に察知し、ザンジバル級の能力を分析して、この戦力を連邦軍が特に警戒した可能性があります。
ザンジバル級が就役すると、どのような影響があるのか。これはジオン軍が地球上の「いつでも」「どこにでも」軍事作戦を行える能力を持つということです。この時期の地球連邦軍が、ジオンとの戦争で制宙権を失うと考えていたとは思えませんが、地球上の重要拠点(連邦議会など)に降下作戦を行ったり、資源収奪や要人暗殺などのテロ的な作戦を進めたりされるかもしれません。
現実の歴史でも、空中からパラシュートやグライダーにより降下して、地上で戦闘を行う「空挺部隊」は、奇襲性と迅速な戦力投射を可能とします。第二次世界大戦中でも、ドイツ空軍の「降下猟兵」はエバン・エマール要塞の奇襲占領や、ノルマンディー上陸作戦時の後方攪乱など、その特性を活かして大活躍しています。
それらと同様の作戦行動が、宇宙からMSで行われるのは恐怖でしかありません。おそらく、ジオン軍がガンダムと同様にMSに大気圏突入能力を持たせて、空挺部隊のように降下戦闘を行う可能性も考慮せざるを得なかったのでしょう。
例えば、MSが大気圏突入能力を持っている場合、現在の特殊部隊の空挺降下のように、先行するMSを自由降下(高高度からスカイダイビングのように降下する方法)の要員としてみれば、ブースターなどを駆使し、通常の落下傘降下よりも早く、敵地奥深くに単独潜入し、敵に位置を特定される前に情報を収集。後続機体やザンジバル級などの降下を支援することも可能です。
こうした脅威への対策が、0077年度に開発を承認された、「ホワイトベース」などのペガサス級強襲揚陸艦なのでしょう。つまり、ジオン軍が「ザンジバル級+大気圏突入能力を持つMS」を投入した場合、「ペガサス級+ガンダム」で対抗するということです。ガンダムが「いつでも捨てられる」ハイパーバズーカ以外に、大口径実弾兵器を持たないことも、大気圏突入には好適だったということです。
また、ガンダムの大気圏突入能力は、恐らく地上での阻止以外にも、大気圏突入ギリギリの場所での戦闘も想定されていたはずです。そのことを証明するように、ガンダムは偶然発生した大気圏突入直前での戦闘で、母艦である「ホワイトベース」に帰還できない状態でしたが、空力加熱を耐えて地上に降り立ちました。
ただ、ガンキャノンに大気圏突入能力を保有させるのは難しかったと予想できます。そもそも大気圏突入する際には、前述したように、突入速度にもよりますが空力加熱によりかなりの高温に機体が覆われます。240mm実弾砲弾を機内に収納しているガンキャノンに大気圏突入をさせると、誘爆も考えられます。
また、ガンダムの大気圏突入は、劇場版の描写に従うならシールドを機体前方に突き出し、腰部から冷却エアが盾に向けて噴射され、大気圏突入時に発生する熱を防いでいます(テレビ版では耐熱フィルムになります。こちらは機動性が大きく低下します)、そのため、シールド装備を前提としていないガンキャノンでは過重装備なのかもしれません。なお、実際にはザンジバル級の生産数はそこまで多くなく、実戦投入の頃にはジオン軍もかなり劣勢であったことに加え、運用しているMSも大気圏突入能力がなかったため、連邦軍が危惧したような作戦は取られることはありませんでした。
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