船や軍艦の「排水量」ってナニ!? 同じ船でも「いろいろアリすぎ…」になっちゃったワケ
旅客船や自衛隊の艦艇など、艦艇の主要なデータを確認したとき、最初に表されているのが「排水量」です。これには一体どのような意味があるのでしょうか。
基準と満載を併記する理由とは
またかつて、多くの国の海軍で一般的に使用されていたのが「基準排水量」です。基準排水量は満水排水量から燃料やバラスト水などを引いた状態の排水量です。

この基準排水量は1923年に発行されたワシントン海軍軍縮条約において、各国の軍艦の大きさを統一スケールで比較するために用いられた排水量です。なぜ、統一したかというと、軍縮条約の条文で「〇国はこのクラスの艦は基準排水量○○トンまで」と定められた関係で、申告した際に、すぐわかるようにしたかったからです。
第二次世界大戦後は使わなくなった国もありますが、未だに空母や揚陸艦など、多くの兵員、車両、航空機、兵器を搭載するため、荷物や物資で重量が大きく変動する艦艇に関しては、満載排水量と併記する形でこの基準排水量を使用しています。
海上自衛隊でもこの基準排水量と満載排水量を公表していますが、基準排水量の算出方法は「満載状態から、燃料・真水・消費補給物品(糧食・弾薬など)・バラストなどを除いた状態における排水量」と定義しています。戦前に発効された条約は失効しているため、現在は算出方法も各国によって差があり、正確に比べることは難しそうです。
なお、海上自衛隊ではこの基準排水量は重要な意味を持ちます。名前が付けられる前の計画・建造段階の艦艇を、この基準排水量を通称として呼ぶ慣習が根付いているためです。
例えば2013年8月に命名式を行い進水した「いずも」は、それ以前は「平成22年度計画1万9500トン型ヘリコプター搭載護衛艦」と呼ばれていました。FFMという新たな艦種として生まれた「もがみ」型は、研究段階では「3000トン型護衛艦」と呼ばれていましたが、研究が進むにつれて、目的や運用方法が定まってくると「3900トン型」と呼ばれるようになっていきました。
最後に紹介するのが「軽荷排水量」です。これは、船から弾薬・燃料・水などすべての消耗品を搭載しない状態の排水量です。民間船ではこの軽荷排水量が基本的に大きさや重さの指針になっています。
民間船は特に航海や寄港する際、船の保険、運行規模、税金、港の使用許可など細かい手続きが必要です。その際の金額や許可の有無の基準となっているのが、この軽荷排水量です。なお、この軽荷排水量の状態で船を水に浮かべると、多くの船は船底の浮力が強すぎて、転覆してしまいますので、計算上でしか存在しません。
艦艇は、この状態からバラストタンクにバラスト水を入れて、重心を下げてようやく水に浮くことができるのです。このバラスト水を入れた状態の排水量を「補填軽荷排水量」といいます。
なお、すべての排水量で共通して、乗員も船の重量として計算されています。最初に排水量は船の重量とお伝えしましたが、乗員がいなければ、船はただの浮かぶ箱。乗員も含めてやっと、艦船として成立するというわけです。こうした点は、船らしく面白い計算方法となっています。
Writer: 凪破真名(歴史ライター・編集)
なぎはまな。歴史は古代から近現代まで広く深く。2019年現在はフリー編集者として、某雑誌の軍事部門で編集・ライティングの日々。趣味は自衛隊の基地・駐屯地めぐりとアナログゲーム。
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