ロシア兵器の“アジアのお得意様”ついに鞍替え? かつての敵国から戦闘機を購入 一体なぜ?

すでに退役したMiG-21戦闘機の後継機として、ベトナムがアメリカ製のF-16を導入する交渉がいよいよ大詰めを迎えています。しかし、アメリカとベトナムはかつて戦火を交えたことも。なぜ難しい関係にあったアメリカから兵器を導入するのでしょうか?

ロシアはお得意様を失う?

 では、ベトナムへの最大の兵器供給国であるロシアのSu-35ではなく、F-16を選択する理由は何なのでしょうか。

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ロシア軍で運用されているSu-30SM。同機は輸出用のSu-30MKIを国内向け仕様にしたモデル(画像:ロシア国防省)。

 防衛関連分析サイト「Militarnyi」は2025年4月22日に、ベトナム人民空軍がSu-27とSu-30の整備性の悪さに手を焼いているという内容の記事を掲載していました。べトナム人民空軍は、ロシアのメーカーが提供する維持整備支援サービスの信頼性の低さにも不満を抱いているだけでなく、アメリカやEU(ヨーロッパ連合)から経済制裁を受ける可能性もあることから、ロシアに維持整備支援サービスの費用を支払うことに躊躇しているというのです。

 ロシア企業による維持整備支援サービスの信頼性の低さは、MiG-29戦闘機やSu-30MKM戦闘機を導入したマレーシアなどでも問題になっていました。そこで、ベトナムがそれを嫌ってSu-35ではなくF-16を選択したとすれば、当然の判断だと筆者は思います。

 他方、香港の英字新聞「サウスチャイナモーニングポスト」は2025年4月22日付の記事で、ベトナムのF-16導入は、アメリカとの関税交渉における「パワープレイ」なのではないかと報じています。

 同紙はベトナムと領土問題を抱えている中国のメディアですから、多少“意地悪”な報じ方をしているという見方もできます。しかし、ベトナムがF-16をはじめとするアメリカ製兵器の導入を、アメリカのドナルド・トランプ大統領が掲げている大きな関税を回避するための「ディール」(取引)の材料として利用しようとしているとの見方は、他国のメディアでも散見できます。

 ベトナムの複合企業体ビン・グループで主席経済顧問を務める川島博之氏は2024年12月20日付の「JB Press」に執筆された記事の中で、第二次トランプ政権が求めてくるであろう貿易不均衡の是正圧力を、アメリカ製兵器を購入することの「言い訳」としてロシアに使うことをベトナム政府が考えはじめていると述べています。

 ベトナムが軍の最大の兵器供給国であるロシアに対して、「泣く子とトランプには勝てない」という言い訳をするというのは、あり得る話ではないかと筆者も思います。

 唯一懸念事項があるとすれば、アメリカがベトナムに大きな関税を課してベトナム経済が悪化し、F-16を導入するだけの財政的余裕が無くなってしまうことです。とはいえ、ベトナムが単に空軍戦力を強化するだけでなく、外交や経済を有利にするための道具としてF-16を導入するのであれば、やはりしたたかな国だなと思えてなりません。

【注目度めちゃ高っ!】ベトナムの現地で見たF-16の人気ぶり(画像)

Writer:

軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。

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