「エイみたいな旅客機」なぜ使われない? メリット沢山なのに生まれないワケ「民間機すべて同じ形じゃないですか」

旅客機というと、円筒形の細長の胴体に、大きな主翼、そして垂直尾翼と水平尾翼というのが一般的な形状です。一方で、経済性に優れた全翼機などの別の形状も長らく検討されています。しかし、実用化されないのはなぜでしょうか。

乗客が好むシート配置も大きく関係

 最大の障壁のひとつが「快適性」です。航空会社にとって、客の満足度は命綱です。旅客が座席を選ぶ際、圧倒的に人気が高いのが「窓側」と「通路側」です。ですが全翼機やブレンデットウイングボディ構造では、機体が横に広がるため、座席の多くが「中央席」となってしまいます。

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アメリカ空軍のステルス戦略爆撃機B-2「スピリット」。垂直尾翼や水平尾翼などない全翼機という形状をしている(画像:アメリカ空軍)。

 窓のない空間、外界と遮断された広間のような機内は、多くの人にとって圧迫感を与え、不安を呼び起こします。空飛ぶ劇場のような斬新な内部空間を演出しようとする試みもありますが、そうした文化的・心理的バリアは依然として大きいと考えられます。

 また、空港との親和性という現実問題も無視できません。現在の旅客機は、世界中の空港インフラとの互換性を前提に設計されています。搭乗ゲート、ボーディングブリッジ、タキシング通路、整備機材、その他さまざまな機器類すべてが「円筒胴体の航空機」に合うよう最適化されてきました。

 全翼機やブレンデットウイングボディ機は、その幅広く独特な形状ゆえに既存設備と噛み合わず、新たなインフラ整備を余儀なくされると推測されます。一機種の導入のために空港設備を刷新するというのは、経済合理性を著しく損なう決断であり、現実的ではありません。

 こうしたことを鑑みると、将来的には空港の滑走路に静かに滑り込む翼だけの機体が、乗客を乗せて飛び立つ時が来るかもしれませんが、そのような旅客機が誕生するまでにはクリアすべきさまざまな課題が数多く横たわっており、ゆえに現実的な段階にあるとは言えないようです。

【なんじゃこりゃ!?】これが日本で研究中の超異形な「未来の旅客機」です。

Writer:

1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。

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