日本唯一の「特殊な電車」ついに廃車 EVバスに代わったら“タブレット交換”が復活ってどういうこと!?

日本で最後となったトロリーバスが2025年7月上旬に廃車回送され、全て解体されることが分かりました。初の女性運転手が秘話も打ち明けました。

EVバス化で「蘇った」懐かしの風景とは?

 EVバスになって最高速度が45km/hと5km/h上がった、という説明が気になった筆者は、質疑応答の際に理由を質問しました。すると、トロリーバスのラストランの取材でお世話になった室堂運輸区の堀田淳一区長がこう教えてくれました。

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動力車操縦者運転免許証の表紙を見せる立山黒部貫光の山本佳彗さん(大塚圭一郎撮影)

「トロリーバスは自動制御によって信号にて運行しておりますが、EVバスはカメラ(の映像)を監視しながら手動で信号を動かしており、通票(タブレット)の交換も加わって時間が長くなるため、運行時間を抑えるために速度を上げました」

 EVバスになったのに伴い、立山トンネルの途中でバスが行き違う際に、運転手同士がタブレットを交換する様子がディーゼルバス時代以来、30年ぶりに復活したのも大きな見所です。

 トンネルの天井部に残る架線をどうするかとの質問に堀田さんは「正直われわれは名残惜しいので残しておきます」と冗談で参加者を笑わせた後、「これから徐々に撤去します」と明らかにしました。

 その後も愛好家ならではの鋭い質問が続き、山本さんは「皆さんのトロリーバス愛を感じてすごくうれしかったです」と笑顔を見せました。自身も「トロリーバスにはすごい思い入れがある」としながらも、EVバスに切り替わって「プレッシャーから解放された」と打ち明けたことがあります。それは「トロリーポールが架線から外れてしまわないように注意しながら走っていた」ことです。

 山本さんは「トロリーポールが架線から外れると、車体後部の(巻き取り装置)レトリーバーがロープを巻き取ってしまうため、解除するためにはちょっと力がいる作業になります」と打ち明けました。装置がロープを巻き取るのは、トロリーポールを車両に引き戻し、架線設備などの損傷や事故を防ぐためです。ただ、運転手は車外に出て、トロリーポールを架線に戻す復旧作業を強いられます。

 トロリーバスは架線の分岐部や交差部でトロリーポールが外れやすいものの、山本さんが復旧作業をしたのは訓練時だけで「運行時は1回も外さずに乗り切れた」と実に優秀です。

 参加した東京都在住の中学2年生の男子生徒は「立山トンネルのトロリーバスに初めて乗った時に一目惚れして以来、何度も乗りました」と話し、この日も車両を眺めながら「やっぱりかわいい」と感嘆していました。トロリーバスの引退については「老朽化し、交換用の部品もなくなっているのでしょうがない」と理解を示し、「(立山黒部貫光の)皆さんが良い方々で、懇意に接してもらっている運転手さんもいる」と話し、立山黒部アルペンルートの魅力は変わらないと強調しました。

 確かに立山トンネルの車両は”世代交代”しても、愛着を持ってトロリーバスの運行に携わってきた立山黒部貫光の社員が残っています。それぞれの写真がはぐくんだかけがえのない思い出や哀惜の念は、これからも長く語り継がれていくことでしょう。

【見たことある!?】これがEVバス化で復活した「通標(タブレット)」です!(写真)

Writer:

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学フランス語学科卒、共同通信社に入社。ニューヨーク支局特派員、ワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。「乗りもの」ならば国内外のあらゆるものに関心を持つ。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。

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