「路線廃止する」ついに“伝家の宝刀”を抜いた「富山地方鉄道」 世界有数の観光ルートも“分断”か? 残された時間はわずか

経営難にあえいでいるローカル私鉄が、行政の支援を得られなければ2026年秋で2線区を廃止する方針を固めました。世界有数の山岳観光ルートへのアクセス路線も対象に含まれているのには、切実な事情があります。

行政支援なければ廃線も辞さない「最後通牒」

 富山県の私鉄、富山地方鉄道が本線の滑川―新魚津間と、立山線の岩峅寺(いわくらじ)―立山間の2線区について、沿線自治体などの行政からの支援を得られない場合には2026年秋で廃線にする方針を固めたと富山県の有力紙、北日本新聞が2025年7月31日に1面トップで報じました。

Large 20250802 01

拡大画像

富山地鉄本線を走る14760形(大塚圭一郎撮影)

 富山地鉄の取締役会が廃止方針を承認し、沿線自治体に伝えており、支援を受けられなければ廃線も辞さないという「最後通牒」を突きつけた格好です。中でも立山線は世界有数の山岳観光ルート「立山黒部アルペンルート」の玄関口である立山と結んでおり、廃線になればルートが“分断”されて観光産業に冷水を浴びせかねないだけに地元で衝撃が走りました。

 富山地鉄の2024年度決算は、本業の損益を示す営業損益が約4億2500万円の赤字でした。6年連続の損失を計上し、鉄道事業が約8億4000万円の営業赤字だったのが足を引っ張りました。業績不振を受け、富山地鉄は不採算区間の廃線を検討すると繰り返してきました。

 対策として富山県と沿線7市町村は2024年度に富山地鉄鉄道事業の「あり方検討会」を立ち上げて存続に向けた経営再構築策などを議論してきましたが、25年6月に富山地鉄へ乗車した筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は関係者から「具体的な支援策がなかなか決まらないことに富山地鉄が危機感を募らせている」と聞いていました。

 北日本新聞によると、富山地鉄は「6月末までに支援の方向性について回答をいただく予定だったが、行政から示されなかった」と表明。その上で、「行政との協議は続けるが、廃止せざるを得ない区間を明確にしていく段階にある」と廃止方針を伝えた狙いを説明しました。

崩れゆく「私鉄王国」富山

 富山地鉄の鉄道線(富山港線を含まず)は、総延長が93.2kmに及びます。電鉄富山―宇奈月温泉の本線(53.3km)、本線の寺田駅と立山駅を結ぶ立山線(24.2km)、本線の稲荷町と立山線の岩峅寺をつなぐ不二越・上滝線(15.7km)があります。

 3路線の電車の多くが電鉄富山駅に乗り入れており、隣接する富山駅では北陸新幹線や第三セクター鉄道「あいの風とやま鉄道」(旧JR北陸本線)、JR高山本線、富山地鉄軌道線(路面電車)と乗り換えられます。

「鉄道王国」と称される富山県らしい充実した路線網を誇りますが、マイカーの普及に少子高齢化が追い打ちをかけて利用者数が低迷し、足元は揺らいでいます。富山地鉄によると、採算が取れているのは通勤通学輸送が多い本線の電鉄富山―上市間、立山線の寺田―五百石間、不二越・上滝線の稲荷町―月岡間にとどまり、大半を占める残りの区間は赤字です。

【地図で見る】これが富山地鉄の「廃止します区間」です(画像)

最新記事

コメント