「路線廃止する」ついに“伝家の宝刀”を抜いた「富山地方鉄道」 世界有数の観光ルートも“分断”か? 残された時間はわずか

経営難にあえいでいるローカル私鉄が、行政の支援を得られなければ2026年秋で2線区を廃止する方針を固めました。世界有数の山岳観光ルートへのアクセス路線も対象に含まれているのには、切実な事情があります。

廃止を“許すはずがない”事情

 それでも、インバウンド(訪日客)も含めて大勢の旅行者が訪れる立山黒部アルペンルートに向かう鉄道路線が廃止されれば利便性が低下し、富山県の主力産業の一つである観光業の地盤沈下にもつながりかねません。

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富山地鉄立山線を走る旧京阪電気鉄道初代3000系の10030形(大塚圭一郎撮影)

 廃止する岩峅寺駅と立山ケーブルカーの立山駅の間を路線バスに切り替え、立山黒部アルペンルートへのアクセスできるようにする選択肢もあるものの、バス運転手不足のため2025年10月以降に路線廃止や大幅減便を行うとしている富山地鉄にとって現実的なシナリオとは思えません。

 しかも、富山地鉄株の約11%を保有する筆頭株主は、立山黒部アルペンルートの交通機関などを手がける立山黒部貫光です。重要な送客手段の岩峅寺―立山間の廃止に賛同するとは考えにくく、もしも富山地鉄が廃止に向けた手続きを進めようとしているのであれば待ったをかけることも想定されます。

 そう考えると、富山地鉄は沿線自治体に重い腰を上げてもらい、支援策を早急にまとめてもらうために廃止方針という「伝家の宝刀」を抜いたとの見方ができます。

「1日に200万円の赤字を出している」(中田邦彦社長)と火の車になった台所事情は切実で、もはや自社努力だけでは富山県の顔となっている立山連峰への主要移動手段も存続できないため、一刻も早い支援策を求めて「SOS」を発したというのが現状です。

 地元放送局の北日本放送(KNB)によると、富山地鉄は2026年11月末で2線区を廃線にするとの方針を示しています。鉄道事業法は、鉄道路線を廃止しようとする場合には1年前までに国土交通相に廃止届を出すことを定めています。これに沿えば、廃止を食い止める期限は25年11月末に設定されたことになります。

 これまでは「歩みが遅かった」(地元住民)との受け止めが出ている富山地鉄鉄道線の「あり方検討会」は、残された時間が少なくなっている中で、議論のスピード感をこれまでの普通電車並みから特急電車並みへと切り替えて支援策などを取りまとめることが急務となっています。

【地図で見る】これが富山地鉄の「廃止します区間」です(画像)

Writer:

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学フランス語学科卒、共同通信社に入社。ニューヨーク支局特派員、ワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。「乗りもの」ならば国内外のあらゆるものに関心を持つ。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。

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コメント

3件のコメント

  1. 地鉄の儲からない路線はどんどんこの調子でなくなせば良いと思います。慈善事業じゃないからね

  2. そもそも、各停と特急が2両編成で同じ。利用客が違うのに "変" ですね。

    経営計画に疑問を持ちます。

    繁忙期と閑散期で「編成を変える」工夫が必要と思うのです。

    又、並行する私鉄と "同じ駅" に停車しても、御鉄道に魅力が無いと「利用客は増えません」ョ。

    ー 早急な改革をするべきです(^^) ー

  3. 富山地方鉄道(以下「地鉄」)の前身である富山電鉄が敷かれる際、当時の鉄道省が「北陸本線と並行する路線は好ましくない」とクレームを付けて却下しようとしたが、富山電鉄は「長距離路線ではなく上市を経由する地方交通の路線である」と主張し、何とか認可に漕ぎ着けた歴史がある。

    また、北陸新幹線の糸魚川・魚津間建設に伴い、JR西日本から在来線を引き取る打診がなされたが、地鉄は「赤字経営が必至」という事で辞退している。

    もし問題の区間が廃止になれば、「立山黒部アルペンルート」や「宇奈月黒部ルート」が立ち居かなくなるし、信越本線みたいに中抜き状態となる。

    「「あいの風とやま鉄道」に乗り入れれば良いじゃん」という意見もあるが、「あいの風とやま鉄道」は交流電化だから、地鉄側も交直流電車を導入しなくてはならない。

    だが交直流電車を造るには費用が掛かる。