25年で路線網“10倍以上”に 「世界有数の渋滞都市」がどうやって「鉄道都市」に変わったのか 最初は集客も苦労

タイの首都バンコクで都市鉄道のネットワークが急速に拡大しています。1999年にBTSが開業した当初は23kmだった路線延長が、現在は250km近くに達しました。

日本もしっかり参画している!

 ふたつ目の要因として、建設は海外企業にも協力を仰ぎ、車両や運行システムも海外で実績のあるものを導入するという、いわば“既製品”を活用したことです。とくに地下鉄部分の建設は、日本のゼネコンも建設に加わり、そのノウハウが十分に活用されました。

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BTSシーロム線とMRTブルーラインが接続する「タープラー駅」周辺は低層の古い建物が目立っていた街が、高層アパートが建ち並ぶ住宅街へと変貌した(植村祐介撮影)

 また三つ目は、並行する既存の鉄道路線があっても、その路線そのものの高架化など改良ではなく、まったくの新規路線として建設したことも挙げれられます。たとえばARLにはタイ国鉄東線が、SRTダークレッドラインにはタイ国鉄北線が並行していますが、それぞれは別個の路線となっています。

 こうして短期間で拡大したバンコクの都市鉄道網は、通勤時間を短縮させるとともに、これまで渋滞により失っていた時間を解消し、生産性の向上に大きく貢献しました。

 また、“不便な郊外”だった場所が市街地中心部まで20~30分でアクセス可能なエリアとなったことで、不動産開発が進み、通勤圏での良質な住宅の供給も可能となりました。バンコクの都市鉄道の充実は、タイの経済成長に大きな役割を果たしたと考えていいでしょう。

まもなく「運賃の壁」も解消へ 国主導

 なおバンコクの鉄道網は現在、東京や大阪と同じく、「異なる事業者を乗りつぐたびに初乗り運賃がかかる」という状況で、利用者の負担が大きくなっています。しかしタイ政府は間もなく、大胆な政策で運賃負担を軽減する予定です。その政策とは、タイ国民への「全線20バーツ均一」という運賃の実現です。

 じつは現在も、タイの都市鉄道の周縁部では、低廉な均一運賃や無料区間が設定されています。これは「移動の自由」を支援することで貧富の差なく移動できる社会を実現し、経済活動を活発化させる意図と考えられますが、導入を予定する「全線20バーツ均一」も、この施策の延長線上にあると考えていいでしょう。

 なおこの政策は2025年10月1日の導入が予定されていましたが、関連法案成立の遅れに加え、9月に新首相に就任したアヌティン・チャーンウィラグン氏がその実施に慎重姿勢であるとされ、延期が濃厚となっています。

 ただ鉄道などの公共交通手段に対し、「利用した人が運賃を支払う」という受益者負担一辺倒ではなく、「移動の自由が経済発展につながる」という考えは、多数の鉄道事業者で路線網を構築する日本の都市部でも、参考にできるのではないでしょうか。

【え…!】一気に“東京並み”になった「世界有数の渋滞都市」の鉄道網(地図/写真)

Writer:

1966年、福岡県生まれ。自動車専門誌編集部勤務を経て独立。クルマ、PC、マリン&ウインタースポーツ、国内外の旅行など多彩な趣味を通し積み重ねた経験と人脈、知的探究心がセールスポイント。カーライフ系、ニュース&エンタメ系、インタビュー記事執筆のほか、主にIT&通信分野でのB2Bウェブサイトの企画立案、制作、原稿執筆なども手がける。

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