SFじゃない!「人工知能 VS 人間パイロット」が今日も“空中戦”してます! スゴいぞAI、でも人間も負けてない!? 北欧サーブ幹部に聞いた“現実”
サーブは世界初となる実戦形式での「AI搭載機VS人間パイロット」による空中戦を行ったと発表しました。そこから得られた教訓や今後の展望について、同社のイノベーション最高責任者であるマーカス・ワント氏に伺いました。
「AI=最強」ではない!? 勝敗率から見えてきたその長所と短所とは
こうしてみると、AIの方が人間パイロットよりも格段に優秀に見えるのですが、実際にAIと人間パイロットとの空中戦の勝敗率を見てみると、面白い事実が浮かび上がるとワント氏は言います。

「とても興味深いことに、AIと人間パイロットとの勝敗はほぼ五分五分と言えます。午前中の初戦では人間のパイロットがAIに手を焼くことが多いのですが、午後になると彼らは戦い方を学び、新しい戦術を組み立ててAIに対抗できるようになります。ところが、AIを再訓練すると再び難易度が上がる。この繰り返しです。
人間パイロットの方が、その場で起きた変化を即座に察知して適応する点では有利です。AIは与えられた枠組みの変更に対して即応するのがやや苦手ですが、逆に既知の事柄や新たな戦術を学習させる場合は、AIは数日で再訓練できます。対して人間の訓練は数年を要します。つまり長所と短所があり、どちらか一方が万能ということはありません」
このように、サーブでは他社に先駆けてAIに関するさまざまな知見やデータを収集していることがうかがえます。そんな同社にとって、AI開発は終わりのない旅のようなものだと、ワント氏は語ります。
「AIは常に新しいデータを吸収し、成長し続けていく存在です。そのため、その開発に関して完全な終着点というものはないと思います。ただし、一つの節目としては、AIをグリペンに搭載し、パイロットの補助として機能させることです。
グリペンは設計段階から、新しい技術を素早く取り込めるよう計画されています。具体的には、フライトクリティカルな部位(操縦・安全に直結する部分)とミッションシステム(任務遂行に関するソフトウェアや意思決定部分)を分離して設計しています。切り離して隔離するのではなく、両者が効率的に連携できるようにしています。これにより、新しいアルゴリズムや技術を投入してもフライトクリティカルな部分を毎回再認証する必要がなく、迅速に実装できる仕組みになっているのです。
さらに、グリペンでAIを活用した成果を無人機に転用し、自律飛行させることも可能です。有人機と組み合わせてAIの挙動を観察し、その知見を無人システムに移植する。これらを併せて試す段階を経ることで、将来的に有人機との連携が可能なシステムが完成すると考えています」
このように、AIを搭載して自律的に行動可能な無人機は、いまやSFの世界から現実世界へと飛び出してきています。しかし、だからこそ重要なのは「人間の関与」であると、ワント氏は強調しました。
「たとえば自律型無人機などの分野において、AIの活用する際に重要なのは『ヒューマン・イン・ザ・ループ(人間が意思決定に関与すること)』です。AIがすべてを独自に判断するのではなく、人間が『この任務を与える』と明確に判断し、その結果を理解したうえで実行させる必要があります。逐一の操作ではなくとも、意思決定の結果と帰結を人間が把握していることが大前提です」
AIを含めた先端技術をどのように活用していくのかという問題は、世界各国の防衛産業における大きな課題です。創業約90年という北欧の老舗企業サーブの取り組みは、その答えの一つと言えるのかもしれません。
Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)
軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。
コメント