「“ランクル”を装甲化すればいいじゃない」そんな単純な話か? 軍事転用の“日本的な課題” 防衛省の考え次第?
防衛省が軽装甲機動車の後継として、トヨタやいすゞの民生用車両を防弾化して導入する方針だと報じられました。海外の軍では一般的に行われている民生車の転用ですが、日本では果たして“合理的”なのでしょうか。
海外では普通だけど、日本でそれができるのか?
たとえばドイツ軍が運用している軽装甲車「エノク」は、メルセデス・ベンツの民生用汎用四輪駆動車「Gクラス」のドイツ陸軍型「ウルフ」をベースに開発されています。海外の防衛装備展示会では、日本メーカーの民生用四輪駆動車を防弾化した軽装甲車もよく見かけます。

そうした車両は、自動車メーカーが直接防弾化までを担当しているわけではありません。「エノク」を例に挙げると、特殊車両メーカーのACSがメルセデス・ベンツから「Gクラス」を購入し、そこにAMCが製造した装甲ボディを組み合わせるといった加工を加えてドイツ軍に納入されています。
防衛省もトヨタ自動車といすゞ自動車から購入した車体に、日本の特殊車両メーカーが製造した装甲ボディを組み合わせた軽装甲車の導入を考えているのではないかと思います。
ただ、日本の特殊車両メーカーはVIP(要人)用の防弾車両を製造した経験はあっても、軍用レベルの防弾化を施した車両の製造経験は、筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)の知る限りではありませんので、技術的な不安が無いと言えば嘘になります。
日本の特殊車両メーカーが製造するVIP用防弾車両は、注文を受けてから少数を生産する、言わば「オーダーメイド」の商品です。小型装甲車の調達数がどの程度になるのかは不明ですが、軽装甲機動車と同様に年100両以上を調達するのであれば、特殊車両メーカーに対する防衛省の手厚い支援が必要になるかもしれません。
これで前線まで行けと?
防衛省・陸上自衛隊にその考えがあるのかは筆者にはわかりませんが、政界や官界の一部には、少子化に伴う隊員の募集難を踏まえて、陸上自衛隊の人的規模を縮小し、有事の際に最前線で戦うことを主任務とする部隊と、治安維持や災害派遣などを主任務とする部隊に、二極分化させようという考え方があります。
現在、陸上自衛隊は96式装輪装甲車の数が不足していることから、一部の部隊では軽装甲機動車を、最前線まで隊員を輸送する装甲兵員輸送車として使用しています。
小型装甲車はそのような運用をせず、装甲兵員輸送車の役目は導入が開始された「AMV XP」に一任して、治安維持や災害派遣などを主任務とする部隊に配備し、軽装甲機動車の本来の想定用途であった偵察や警備にだけ使用する――それであれば、民生用車両を防弾化した車両を小型装甲車として導入することも、合理的な手法なのかもしれません。
Writer: 竹内 修(軍事ジャーナリスト)
軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。
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