「電気機関車が牽く客車列車」の歴史に幕――“死神”が牽いたJR東日本「最後の列車」に乗る 幹部が明言した機関車の今後
JR東日本が電気機関車の旅客列車運用に幕を閉じました。残念がる愛好家らが押しかけましたが、他の用途で使われる可能性はあるのでしょうか。
幹部が明言した「今後」
「ありがとうEL号」1号の45分ほどの行程はあっという間でしたが、普通で運用されているE129系電車では味わえない旅情をもたらしてくれました。車窓に田園風景が広がっていることもあり、客車列車の乗り心地はタイムマシーンのように昔の記憶を呼び起こしてくれました。
筆者が大学時代の1993年夏、サークルの旅行でJR東日本東北本線の岩手県内の区間を移動中の光景とよく似ていたのです。そのときは「青春18きっぷ」を携え、電気機関車が牽く赤色の50系客車のボックス座席に陣取った記憶が、つい昨日のことのようによみがえりました。
「ありがとうEL号」は車内の座席が「満員御礼」となる盛況ぶりで、沿線にはカメラを構えてシャッターチャンスを狙う黒山の人だかりができました。旅客列車からの引退はもったいないほどの人気ぶりですが、他の活用法はあり得るのでしょうか。
筆者がJR東日本幹部に尋ねると首を横に振り、「今後は廃車にしていく方向です」と明言しました。その理由として、廃車や新車の回送の牽引は交直流両用事業用車両E493系にバトンを譲り、寝台特急「カシオペア」に使われていた客車E26系が引退したことで、客車列車を牽く役割も失ったためだと説明します。
その幹部の「もう電気機関車の時代ではないですよ」という言葉を聞き、筆者は新美南吉の童話「おじいさんのランプ」の場面を思い出しました。
それは、ランプを売っていた主人公の巳之助が廃業を決意して「お前たちの時世はすぎた。世の中は進んだ」と言いながら石を投げ、木につるしたランプを割る光景です。ランプの販売を追い詰めたのは電気で、巳之助は「世の中は進んだ。電気の時世になった。」とも口にしています。
それから歳月が過ぎ、その電気を使って走る機関車までもが「退場宣告」をされるようになるとは――しかも、解体する工場へと廃車を死出の道へいざなう「死神」として恐れられたEF64形1030~1032号機が、今度は自らが終焉の地へ向かう番になるとは――
JR東日本の従来型電気機関車の退場に惜別の念を抱くとともに、「平家物語」の冒頭の一節「諸行無常の響きあり」が現世にも通じることをかみしめました。
Writer: 大塚圭一郎(共同通信社経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員)
1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学フランス語学科卒、共同通信社に入社。ニューヨーク支局特派員、ワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。「乗りもの」ならば国内外のあらゆるものに関心を持つ。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。





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