「ランクルを“装甲化”するらしいんですが」民生車の軍事転用、成功には何が必要? 軍採用メーカーの答えは
防衛省が軽装甲機動車の後継として民生車両の装甲化を検討していると報じられるなか、タイではすでに同様の手法で開発された車両が軍に採用されています。タイの事例から、民生車ベースの軍用車両開発を成功させるカギを探ります。
なぜタイは「ハイラックス」ベースの軍用車を必要としたのか
タイ陸軍はアメリカから汎用四輪駆動車「HMMVW」(ハンヴィー)を導入していますが、車体価格や運用コストが高く、必要とするだけの量を調達することができませんでした。このためタイ陸軍はハンヴィーより小型の民生用四輪駆動車をベースとする軍用車両の開発をタイ・ルン・ユニオン・カーに依頼。その結果誕生したのがM50シリーズというわけです。
そのM50シリーズは前出の通り、ハイラックス・ヴィゴをベースに開発されています。これはD-MAXに何か問題があったわけではなく、タイ陸軍が民生用のハイラックス・ヴィゴをそのまま購入して使用しているため、整備補給コストの低減が見込めたからとのことです。
民生用車両を防弾化する軍用車両が性能をフルに発揮するためには、防弾化したボディの重量増加に耐えるため、ブレーキやサスペンションなども強化する必要があります。
タイ・ルン・ユニオン・カーの担当者は、「いすゞモーターズやトヨタの現地法人と密接に相談しながら、重量増加に伴うブレーキなどの強化などを行ったため、M50シリーズなどの開発はスムーズに進みました」と話します。民生用車両の防弾化は、「ベース車のメーカーと密接に協力して進められるのかが、成否のカギとなる要因の一つだと思います」とも。
M50シリーズにはハンヴィーと同様、非装甲型と、ハンヴィーではM1114などに該当する装甲型の2タイプが存在します。防弾ボディの製造はタイ・ルン・ユニオン・カーが行っていますが、量産軍用車両での製造はM50シリーズが初めてだったといいます。
それまで同社は、VIP(重要人物)などからの受注で民生用車両に組み合わせる防弾ボディを製造した経験は豊富に持っていたものの、量産軍用車両としてタイ軍の要求に応じるための仕様の決定や生産施設の拡充などで、軍と密接な協力が必要だったと、担当者は振り返りました。
防衛省がどのような手法で民生用車両の防弾化を進めようとしているのかは判然としませんが、民生用四輪駆動車をベースに軽装甲機動車の後継装備を開発するのであれば、防弾ボディを開発・製造する企業と、ベース車のメーカーであるトヨタやいすゞ、そして防衛省が密接な協力関係を構築して進めていく必要があると筆者は思います。
Writer: 竹内 修(軍事ジャーナリスト)
軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。





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