失意のうちに日本を去った「元JRの最新高速船」が“韓国”でデビュー! “日本船だらけ”の中を本気走り!?
かつて博多~釜山航路に就航していた日本の「クイーンビートル」が、韓国のクルーズ船「パンスターグレイス」として生まれ変わりました。特異な赤いトリマラン(三胴船)で楽しむクルーズで見られたのは「日本のフネだらけ」な光景でした。
ズザザアァァーーっと旋回! これがトリマランの本気!
釜山港を出ると景勝地である五六島の沖へと向かいます。五六島は潮の満ち引きによって島の数が5つや6つに見えることから名付けられ、かつては釜山広域市の旗にも使われていました。この五六島沖では船を止め、周囲の景色をゆっくりと眺められる時間が用意されています。
この釜山港外は外航客船として建造された「パンスターグレイス」の本領が発揮できるエリアで、波のうねりが激しい中で速力を上げて突き進んでいく様子を楽しめます。方向を変える時は飛行機が旋回する時のような船体の傾きを体感できるのも「パンスターグレイス」に乗船する醍醐味の一つです。
ちなみに船内のF&Bラウンジでは軽食やソフトドリンクだけでなく、ビールも販売しており、座席に座って景色を眺めながらのんびりと過ごすこともできます。
日本でいろいろあった2隻が「奇跡の並び」
復路は来た時と同じルートを辿り、RORO船の「IRIS」が出迎える沿岸旅客ターミナルへ接岸しました。
この「IRIS」も、もとは商船三井フェリー(現・商船三井さんふらわあ)が2019年に導入した「すおう」で、2023年の座礁事故後、韓国にやってきました。同時期にデビューし、日本でいろいろあった「すおう」と「クイーンビートル」が韓国で並ぶとは、思いもよりませんでした。
現在、「パンスターグレイス」は五六島など釜山のランドマークを眺める「釜山東海沿岸クルーズ」、夕焼けに彩られる釜山の景色を楽しむ 「サンセットクルーズ」、海上花火と夜景、ライブパフォーマンスを堪能する 「花火クルーズ」 の運航を行っています。
「釜山東海沿岸クルーズ」ではファーストクラスとビジネスクラスの乗客を対象に、テジクッパ、うなぎの蒲焼きなどで構成した「釜山グルメセット」を予約制で販売しているほか、「サンセットクルーズ」と「花火クルーズ」は週末の金土曜を中心にビュッフェスタイルのディナーを提供する「ディナークルーズ」のプランも用意されています。
パンスターグループは「パンスターグレイス」に大きな期待をかけており、今後は広安大橋や観光地である海雲台など、釜山沿岸の他の場所へも広げていく予定。さらにプライベートパーティー、企業イベント、文化公演などのテーマ型クルーズプログラムを導入し、複合海洋文化プラットフォームとして活用することも計画しています。
かつて日本と韓国を結ぶ新鋭船として活躍するはずだった「クイーンビートル」。船内の魅力的なデザインと設備はほぼそのままに、今度は釜山の魅力を伝える「パンスターグレイス」として動き始めたこの船が、多くの人に愛されることを願っています。
Writer: 深水千翔(海事ライター)
1988年生まれ。大学卒業後、防衛専門紙を経て日本海事新聞社の記者として造船所や舶用メーカー、防衛関連の取材を担当。現在はフリーランスの記者として活動中。




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