小泉大臣「中国から演習の事前通告なかった」←ナゼ問題? 紐解くカギは“海のルール”にアリ

中国戦闘機による空自戦闘機へのレーダー照射が日中関係に大きな影響を及ぼしていますが、そのような中で小泉防衛大臣が「(事案発生時に)中国軍から演習実施を通知されていなかった」ことを明らかに。法的な問題はあるのでしょうか。

他国のEEZ内で演習はOK! でも“ある条件”が

 ただし、いくら演習の実施が許されているといっても、好き勝手に何でもできるというわけではありません。というのも、他国のEEZ内における活動に関して、UNCLOSの58条3項に次のような規定があるためです。

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防衛省・統合幕僚監部が発表した「遼寧」ほかの12月6日から7日にかけての行動概要(画像:防衛省・統合幕僚監部)。

「いずれの国も、排他的経済水域においてこの条約により自国の権利を行使し及び自国の義務を履行するに当たり、沿岸国の権利及び義務に妥当な考慮を払うものとし、また、この部の規定に反しない限り、この条約及び国際法の他の規則に従って沿岸国が制定する法令を遵守する」

 この沿岸国の権利及び義務に関する「妥当な考慮」とは、EEZの法的性質を考えると、たとえば漁船を含む船舶の航行や航空機による上空通過を妨げたり、あるいは海上の財産や人命を危険にさらしたりすることがないよう、当該国が沿岸国(およびEEZを利用するその他の国)に対して一定の配慮を行うことを指すと考えられます。そして、軍事演習の場合には、たとえば演習実施区域を事前に沿岸国などへ通報することが、この妥当な考慮の一例にあたり得ると考えられます。

 そのうえで、最初に触れた小泉大臣の発言を見てみると、中国側は演習実施に先立ち航空機への警戒を促す「Notice to Airmen (NOTAM:ノータム)」や、船舶に対する航行警報を発出していなかったわけですから、これは「妥当な考慮」を払うという条約上の義務に違反している可能性を指摘できます。

 この点に関して、実弾射撃を伴わない、艦載機の発着艦のみの演習ならば船舶の航行や航空機の飛行に影響を及ぼさないため、事前通告は不要との反論も考えられます。しかし、演習海域が沿岸から相当距離のある場所ならばいざ知らず、防衛省が明らかにしているところでは、12月6日から7日にかけて、「遼寧」は沖縄本島と沖大東島の間の海域を抜け、鹿児島県喜界島の東約190kmの海域まで進出しています。とすれば、船舶の航行や民間航空機の飛行に影響が及ぶ可能性もあるため、やはり事前通告は必要だと筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は考えます。

 そうしたことを鑑みると、中国海軍による演習実施そのものは問題ないものの、それを行う際に必要とされる措置をとらなかったことは、問題であると言えるでしょう。

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コメント

1件のコメント

  1. 自国の不都合な発信をする国が、他国を威嚇する意図をもって実施する演習という名の威嚇行為を許すべきではなく、世界平和を誠実に希求する日本は、臆することなく世界各国に、武力を用いて他国に危害を加え或いは威嚇する周辺国の実態を明らかにすべきである。特に東シナ海を自国の庭のように主張する国と第三次世界大戦の発端となる侵略行為を行っている国についてしっかりと主張を展開することを政治家に望む。