「東京メトロ式」で快進撃の海外地下鉄、運転士がスゴすぎる!? 「これを1日8時間…」 シミュレーターが“激ムズ”だった

英ロンドンのエリザベス線は、東京メトロや住友商事が英国鉄道大手Go-Aheadグループと共同出資する地下鉄路線です。今回、この心臓部ともいえる車両基地を見学。1台が数百万ポンド(数億円)するという本物の運転シミュレーターも体験しました。

競合他社も視察に来る運転士研修

 車両基地には訓練室が4部屋あり、運転士研修が50人ほど同時に実施できるそうです。当日は、競合他社の視察団が訪れていたのに加え、ベテラン運転士のスキルアップ講座と、運転士見習いの研修が行われていました。

Large 20251220 01

拡大画像

教官(奥の女性)と新人研修性(赤川薫撮影)

 運転士見習いの研修は、対象者の習熟度合いに応じて進められます。大体、9か月から1年をかけ、合計225時間を本物の運転席そっくりに作られた運転シミュレーターで研修します。

 毎週金曜には確認テストがあり、同じテストに2度落第すると、その時点で失格になります。研修責任者のフォルショ・オルショラ氏は「落第者が出ないように、教師陣は全力で生徒をサポートしている」と何度も念押ししつつ、それでも、2019年から約200人の研修生を見守る中で、「過去に2人が失格になり、運転士の夢を断念した」と残念そうに回顧しました。大切な人命を乗せて運ぶ職業ですから、甘くはないようです。

 車両基地内での研修を無事に修了すると、トレーナーの立ち合いの下で実際の電車を運転する6週間の研修を経て、一人前の運転士となるそうです。

 8週間前に採用されたばかりという研修生らに「実際の鉄道運転と、鉄道ゲームで遊ぶのと何が違いますか」という失礼極まりない質問をあえて投げかけてみたところ、「暗記しなくてはならない項目がとても多い」「昨日、車両基地内で初めて実際の電車を少しだけ動かした。それだけでも緊張で震えた」「全くゲーム感覚じゃない」と、異口同音に悲鳴を上げていました。

運転シミュレーターを体験

 さて、筆者も、実際に研修で使われているシミュレーターに乗り込みました。エリザベス線で使われているアルストム社製の「クラス345型(通称Aventra)」の運転席部分を忠実に再現したものです。1台が数億円するといいます。

 体験させてもらったのは、ヒースロー空港第4ターミナル駅からパディントン駅を通り、ロンドン中心街で高級ブティックが立ち並ぶことで有名なボンド・ストリート駅まで、約30分の区間。そこを実際の運行のように運転するのです。

 同区間の運転の難しさは、乗客が多く、過密ダイヤになっていることだけではありません。欧州全域で採用されている「ETCS」と、主に英国で使われている「TPWS」、そして、過密な都市部で自動運転を可能にする「CBTC」という三つの異なる列車制御システムが混在しているのです。その三つのシステムに対応しているクラス345型の車両をうまく制御しながら、運転中にシステムを切り替える必要があります。

 具体的には「制御システムが変わります」というメッセージが運転席正面のスクリーンに点滅してから1.9秒以内に「認識ボタン」を押す必要があります。と同時に、新しい制御システムの区間に入ったことで、画面上に表示される情報などが一新されるのです。

 1.9秒内にボタンを押し損ねた場合は、列車は緊急停止してしまいます。「制御システムが変わります」というメッセージを聞いてから反応するのでは間に合いません。「合計225時間のシミュレーター研修を経ると、どこで制御システムが切り替わるのか、頭の中に叩き込まれているから大丈夫」と、研修責任者のオルショラ氏は胸を張ります。

【数億円】これが基地内部と研修用の「運転台」です(写真)

最新記事

コメント