混雑率が“5年連続”全国ワースト!? なぜ「日暮里・舎人ライナー」はこんなに混むのか? 対策に苦戦するワケ

日暮里駅と舎人地域を結ぶ新交通システム「日暮里・舎人ライナー」は、“日本一の混雑路線”として知られています。これまで講じられてきた対策でも、抜本的な混雑解消には至っていませんが、背景にはどのような事情があるのでしょうか。

対策は八方塞がりなのか?

 日暮里・舎人ライナーの整備構想は、1970年代に生まれました。当初は地下鉄の整備を目指す運動もありましたが、1985(昭和60)年の運輸政策審議会答申第7号以降は「中量軌道システム」の採用を前提に検討が進みました。これほど混雑するなら、最初から地下鉄として建設しておけばよかったのでは、と思うかもしれませんが、そう単純な話ではありません。

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日暮里・舎人ライナー開業時の車両300形(乗りものニュース編集部撮影)

 都市交通機関には地下鉄、ミニ地下鉄(リニア地下鉄)、モノレール、新交通システム、路面電車、バスなど様々な形態があります。1kmあたりの建設費は、地下鉄が300億円以上、ミニ地下鉄でも200億円前後と高額です。これに対して新交通システムは、日暮里・舎人ライナーが130億円、「ゆりかもめ」が114億円と割安です。

 それでも、利用者が多ければ多額の費用を投じても地下鉄を整備すべきですし、少なければ最初から軌道系交通は必要ありません。輸送密度(1日1キロあたりの利用者数)でいえば、地下鉄は10万人以上、ミニ地下鉄(リニアメトロ)は3~10万人、モノレール・新交通システムは1~3万人が整備の目安でしょう。

 しかし、日暮里・舎人ライナーの輸送密度は約5万人です。つまり、新交通システムとしては利用者が多すぎ、逆に地下鉄を造るには足りないという、エアポケットのようなニーズの路線なのです。

 また、これだけの利用があっても、日暮里・舎人ライナーの経営は決して楽ではありません。最終黒字を達成したのは2024年度が初めてで、その額はわずか2.5億円。開業以来の繰越損失は約189億円に達しています。もし地下鉄として造っていたら黒字化は絶望的であり、神戸市営地下鉄海岸線のように、経営難に陥っていたかもしれません。

 そもそも、軌道法の特許を取得した1995(平成7)年時点での需要予測は、1日あたり10.1万人でした。その後、予測は経済社会情勢の変化で4.2万人に下方修正され、駅舎の規模を縮小するなど、事業の見直しも行われています。開業から15年以上を経て、ようやく当初の想定に近付いてきましたが、仮にさらに上を狙っていたら、計画は中止されていたでしょう。

 加えて、利用者層の偏りも問題に挙げられます。コロナ前のデータであるものの、2018年度の全利用者に占める定期利用率は、都営地下鉄平均が59%、東京メトロ平均が57%なのに対し、日暮里・舎人ライナーは69%。都市部の路線としては、トップクラスの朝ラッシュ偏重路線となっています。

 車両や駅務機器、信号保安装置など、鉄道施設の多くは朝のラッシュ時しか使用しない効率の悪い資産です。ラッシュ輸送のためだけに大規模投資を続ければ、収支の悪化は避けられません。日暮里・舎人ライナーがこれ以上の設備投資を抑制し、バスの活用など、他の対策を模索する背景には、こうした事情もあります。

 また、オフピーク乗車の促進にも限界があります。過去には東急田園都市線や東京メトロ東西線がキャンペーンを実施して一定の効果を上げてきましたが、一方でJR東日本のオフピーク定期券は思うように普及していません。短期的なキャンペーンなら気軽に参加できても、生活様式の変更を伴う恒久的なピークシフトは容易ではないのです。

 期せずして日本一の混雑路線となってしまった日暮里・舎人ライナーの苦悩は、鉄道整備がもたらす効果の大きさと同時に、その計画の難しさを物語っているといえるでしょう。

【苦悩だ…】これが「日暮里・舎人ライナー」に関するデータです(表と写真)

Writer:

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx

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