増発しないのになぜ? 今どき珍しい地方私鉄で複線化 「要らない」とまで言われた鉄道の復活劇
高松琴平電気鉄道(ことでん)で複線化工事が進んでいます。2000年代以降の地方私鉄では珍しいこの取り組みですが、経営破綻を乗り越え利用者数を回復させた背景には、様々な計画の変遷がありました。
幻の「LRT化」構想
この計画の背景には、高松市の大西秀人市長が2007(平成19)年に発表した「LRT化構想」がありました。2000(平成12)年に都市計画事業認可を受けた高松築港~栗林公園間連続立体交差事業が、自治体の財政難と琴電破綻の影響で頓挫(2010年事業中止、2023年都市計画廃止)したことから、平面交差による利便性向上を訴えたのです。
瓦町からJR高松駅に乗り入れ、停留場を追加するなど路線を改良し、高松駅前~仏生山間にLRV(低床車両)を運行するなど、いくつかの運行パターンが検討されましたが、琴電は難色を示します。
琴平線は朝ラッシュ4両編成(72m)、それ以外は2両編成(36m)で運行していますが、LRVは最大30mなので輸送力が不足します。LRT専用区間は朝ラッシュ1時間あたり19本以上の運行が必要と試算されており、あまりに過大な投資です。また瓦町、仏生山で乗り換えが必要になるなど利便性が低下します。
福井県のえちぜん鉄道のようにLRTと普通電車を併用する案もありましたが、その場合は高床ホームと低床ホームの両方を整備する必要が生じます。また、LRVの運行本数が限られるため整備効果が低く、国の補助制度の対象外となる可能性がありました。
すでに十分な輸送力があるのに、そこまでの大手術が必要なのか。結局、新駅設置・複線化はLRT化と切り離して行われることになりました。2025年6月改定の高松市「多核連携型コンパクト・エコシティ推進計画」は、持続可能な公共交通ネットワークの再構築として「新交通システム(LRT等)の導入検討」を掲げており、構想が全く消えたわけではないようですが、実現の芽はほとんどなくなったとみてよいでしょう。
琴電の輸送人員は2010(平成22)年の約1246万人を底にして2019年には約1492万人、90年代末の水準まで増加しました。コロナ禍で大きく減少しますが、2024年度は約1431万人まで回復しています。
2024年6月に認定された琴電の鉄道事業再構築事業は、「省エネ性能の高い新造車両の導入及び安全輸送設備の更新」に5年間で72億円を投じるとしており、2026年秋には琴電66年ぶりの新型車両「2000形」2編成4両がデビュー予定です。最終的な導入編成数は明かされていませんが、今後、新車両が続々と導入されていくでしょう。複線化後の新世代の琴電に注目です。
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx





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