高速バス路線の興亡史 豪華バスでもJRでも崩せぬ「地元バス会社」最強説

昨日までの仲間が「競合路線」開業!? 結果は…

 それが福岡~宮崎です。この区間を結ぶ高速バス、福岡~宮崎線「フェニックス号」は1988(昭和63)年に西日本鉄道、九州産業交通、宮崎交通の共同運行で開業、翌年からはジェイアール九州バスも参入し、4社がほぼ同じ便数を担当していました。予約発券窓口なども4社共通で一体として運行されていた同路線は、競合する鉄道が不便なことから順調に成長し、2008(平成20)年には28往復体制まで増便されます。ちなみにこの福岡~宮崎には高速ツアーバスも参入しましたが、各社1、2往復程度の「ニッチ商品」にとどまり、「フェニックス号」の圧勝が続きました。

 ところが、2011(平成23)年、JR九州バスが同路線の共同運行から撤退し、独自に同区間で「たいよう」の運行を開始します。昨日までの仲間が突然ライバルになったのです。運行頻度が重要なことは同社も認識しており、最初から10往復を確保する意気込みの大きさでした。

 しかしながら「たいよう」の乗車率は振るわず、わずか1年で「フェニックス号」の共同運行に「出戻り」することになります。たしかにJR九州バスは「フェニックス号」の運行で20年を超す実績がありましたが、乗客の多くは「地元の名士企業」としての宮崎交通や九州産交が開拓しており、これら2社の予約センターの電話番号を記憶し、あるいは2社の公式サイトからリンクで誘導される予約サイトから予約していました。大切なのは運行の実績ではなく「誰が顧客を握っているのか」という点であったのです。

 ここまで見たように、短・中距離の昼行路線で後発参入が成功した事例はあまりありません(高速道路開業などで環境が一変した区間は除く)。しかし、逆転とまではいかずともほぼ互角に持ち込んだ数少ない例が、東京~小諸(長野県)です。

 もともと、「地元の名士」千曲バスが西武バスらと共同で、池袋~小諸を1991(平成3)年から運行していましたが、2009(平成21)年、そこへ突然、JRバス関東が単独で新宿~小諸を開業したのです。同社は8往復から運行を開始し、いまでは最大10往復まで成長しました。千曲/西武は、小諸駅発着便と高速道路上の「小諸高原」停留所発着便を合わせて9往復です。

 JRバス関東の路線に人気が集まった理由は3つあります。第一に、東京側の拠点が新宿で、千曲バスらの池袋より便利だったことです。第二に、ダイヤ設定です。地方側在住のリピーターには、東京になるだけ早く着く上り便と、東京をなるだけ遅く発車する下り便が人気で、JRバス関東の路線は、上り初便の新宿着が8時27分(小諸駅発5時20分)、下り最終便の新宿発は22時15分(小諸駅着1時15分)とそのニーズに応えています。地方はクルマ社会でパークアンドライドが定着していますから、早朝発や深夜着の便でも苦になりません。

 第三に、予約発券方法、特に乗車便変更や払い戻しの便利さが異なります。両路線とも自動キャンセルが導入されており、予約後、期限までに決済(支払い)が必要です。しかし、JRバス関東は、乗務員がタブレット端末でリアルタイムの発券状況を確認できる「電子座席表」を導入していることから、スマートフォンなどでクレジットカード決済した後でも、発車時刻ギリギリまで簡単に変更、払戻が可能です。前述したとおり、地方在住のリピーターは、発車時刻直前にも便変更を多用します。高頻度運行の昼行路線は鉄道の自由席と競合することもあり、なるだけ柔軟に、気軽に乗車してもらえる環境づくりが重要です。

 東京駅~松本線の撤退から20年近く経って参入したこの路線で、JRバス関東は、昼行路線の「勝ちパターン」を見つけたのかもしれません。

 こうしてみると、高速バス路線が成功するためには、どのような乗客がどんな風に利用してくれているのかを正しく把握し、そのニーズに応えるよう真摯に取り組むことが重要だということがわかります。いわば、ビジネスの基本そのものです。そう考えると、万が一にも重大な事故を起こしてしまえばリピーターも離れてしまいますから、安全に運行を続けるという基本こそ、最大の成功の法則だとも言えます。

【了】

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コメント

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8件のコメント

  1. ちょっと寸足らず。
    富士交通の場合は難色を示す既存事業者に突っ込んで行った点。
    結局は本数もあるにせよ運賃対決。

    大手先発は苦しくなっても体力面では無敵。
    こうなると富士交通が限界に挑戦。
    出来るはずもなく…

    運賃などに違法性ありとの結果が出た頃には時既に遅し。

    • 博多~宮崎の場合は、
      元々から運行していた時からの意見など参考にJR九州バスも対策。
      ところが西鉄と宮交も即時反応。
      これが出来るところが凄いことで、
      車両のグレード向上や博多駅先回りに経路変更。
      更に最終的に天神に行くとはいえ博多駅先回りの穴埋めで、
      西鉄バスが市街地路線バス押さえてるのを利用して、
      天神までのショートカット経路も確保。

      ところがJR九州は、
      天神のショートカットルート確保できず(一応地下鉄使ってね♪とは試みたけど)、
      それどころか天神に乗り入れすらできず。

      もう運賃や本数以前の問題で、
      ここで詰み確定。
      予想通り撤退と西鉄に頭下げる事態に。

    • しかし・・・セレクトシート車という、ぶっちゃけ負の遺産も・・・。

    • フェニックスのセレクトシートは評価が別れているようですが、
      1台で2通り(それ以上も)という発想力は大きかったという面も。

      フェニックスとは無関係の他社にも真似されるという
      ある意味で功績というかなんと言うか

  2. 縄張りみたいなものか?
    高速バスは激しいのか?

    • 元々バス事業は営業地域や事業規模などという住み分けが。
      それらを段階的に取っ払ったのが、
      いわゆる規制緩和。

      それに目をつけて勇猛果敢に突っ込んで行ったのが富士交通。

      逆に振り回されたのがフェニックスとJR九州との関係。
      九州旅客鉄道(親)が余計なこと思い付いたばかりに…
      尤もフェニックスの場合、
      元の西鉄連合入りしているところをみると、
      喧嘩する台本があったのかも知れませんけど…

  3. 高速バスを選ぶにはやはり土地勘豊富な地元路線バス会社の方が安心感がありますね。
    一度新宿白馬を往復した際、帰りのバス(東京のバス会社)が通行止めう回路誘導されたら道に迷って地元の人に道を聞くという珍事がありました。
    前の日が全国的大雪で軒並み運休で運転手のやりくりも困難だったらしく、急遽違う路線を担当した運転手だったようです。
    そういえばアステローペは後ろが2階建てなのが知られてますがこの写真のは珍しくSHD仕様ですね。

  4. 地元を最凶