戦車の砲はなぜひとつ? 多砲塔戦車が廃れ単砲塔単砲身に落ち着くまでの紆余曲折とは(写真14枚)

「陸上戦艦」の威力やいかに

 1925(大正14)年、イギリスが世界最初の多砲塔戦車「インディペンデント」を試作します。47mm砲を装備する大型砲塔1個と、機銃装備の小型砲塔を4個、合計5個の砲塔を載せており、その姿は本当に「陸上戦艦」のようでした。

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1920年代にテストされた「陸上艦隊」を捉えた写真。「インディペンデント」重戦車の周囲に豆戦車が併走している(画像:月刊PANZER編集部)。

 イギリス陸軍はこの「インディペンデント」を陸上戦艦に見立て、機銃のみを装備した豆戦車(言うなれば「陸上駆逐艦」か)と「陸上艦隊」を編成して演習を行ったりもしました。いかにも海軍国らしい発想です。

 これに影響を受けてドイツ、ソ連、フランス、イギリス、日本と戦車を開発できる工業力のある国はこぞって多砲塔戦車を造りました。ところが実際に造ろうとすると色々問題がありました。回転する砲塔をたくさん載せると構造は複雑になり、手間が掛かって大量生産できない上に高価になってしまいます。また、当時の非力なエンジンでは大きく重い車体はのろのろと動くことしかできません。少しでも軽くしようとすると装甲が薄くなって防御力が弱くなります。車体は大きいのですが個々の砲塔は小さく大きな砲が搭載できません。そして全ての砲塔を動かすために多くの乗員が必要で、車内は窮屈です。

 苦労してできあがった多砲塔戦車は使ってみるとこれまた難物で、多くの乗員がそれぞれの砲塔で別々の目標を狙って射撃するので、ひとりの車長では指揮しにくいことも分かりました。たとえば、ある砲塔の射手は敵を狙うのにもう少し前に前進したいと思っているのに、ほかの目標を狙う別の砲塔ではバックして欲しいと車長に要請するといった具合です。いくら砲や機銃がたくさんあっても車長はひとつの目標にしか注意が向きません。しかも構造が複雑なため、故障もしやすく整備も面倒でした。

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1両だけ造られた「インディペンデント」重戦車。中央の大型砲塔(3ポンド砲搭載)の周囲に7.7mm機関銃搭載の小型砲塔を4つ配置している(画像:月刊PANZER編集部)。
英が1930年代に開発した巡航戦車Mk.1。多砲塔戦車の思想を残し機関銃搭載の小型砲塔を2つ装備。車内は窮屈で、砲塔の旋回角度も限定された(画像:月刊PANZER編集部)。
1920年代末に製作された中戦車Mk.3。3ポンド砲搭載の主砲塔の前に機関銃搭載の小型砲塔を2つ装備する。そのため乗員は7名と多かった(画像:月刊PANZER編集部)。

 イギリス陸軍の「陸上艦隊」は見かけこそ派手でしたが、研究の結果「実戦向きではない」と判定されてしまいます。結局イギリスはこの面倒くさい多砲塔戦車を「インディペンデント」の試作車1台のみで放棄してしまいました。

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コメント

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6件のコメント

  1. 昨今の市街戦等の歩兵対策で砲塔上に装備されるRWSなんて多砲塔戦車の再来って言えなくもない?
    その前にアメリカのM60戦車の車長キューポラ内装の.50calもそんな感じだけど。

  2. ロマンがあるだけに来て欲しい多砲搭戦車が見直される日

  3. 多宝塔の精神は日本で生きている。

  4. この手のライターさんは、
    なぜパットンやリーやラム等の銃塔を無視するのか。
    多砲塔戦車の中でも特異なT-35を代表扱いするのか。
    T-35が採用時点の戦車の中では重装甲だったことを無視するのか。
    T-28が当時BTを除けば最高クラスの機動力だったことを無視するのか。
    英の多砲塔戦車はA1E1以外機動戦車の系列だということを無視するのか。

  5. 公式に多砲塔戦車というカテゴリが存在するわけではなく、後世の人間が複数の砲塔を持つ戦車の一部を恣意的にそう呼んでいるだけです。

  6. ついでにインデペンデントが複数の銃塔を持つのは、WW1で戦車の機動力に追従できなかった随伴歩兵の代わりに戦車を守る、いわば歩兵からインデペンデントする為という明確なもの。記事中のようなぼんやりした理由ではありません。