四日市あすなろう鉄道が導入した「公有民営」光と影 「小さな鉄道」再始動から3年(写真64枚)

存続の鍵「公有民営方式」とは

 車両も狭い軌間に対応した特殊なもので、軌間が広い通常の鉄道に比べて製造費が割高。そう簡単には古い車両を置き換えることができません。その古い車両を使い続けるための修繕費も通常の鉄道より高くなりがちです。これに利用者の減少も相まって経営は厳しく、毎年2億5000万円から3億円程度の赤字を出していました。

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近鉄時代の内部・八王子線。毎年約3億円の赤字だった(2013年3月、恵 知仁撮影)。

 このため近鉄は2012(平成24)年、バス高速輸送システム(BRT)に転換する考えを示しましたが、沿線の住民や四日市市は「バスでは一度に運べる人数が少ない」などとして反対。調整の結果、近鉄と四日市市は「公有民営方式」を導入して鉄道を存続することにしたのです。

 この方式では、四日市市(公)が国や三重県の補助を受けて線路や車両を保有。近鉄と四日市市が新たに出資する運行会社(民)に無償で貸し付けて、列車を運行します。線路や車両を保有するのが地方公共団体のため維持費に税金を投入しやすく、運行会社も線路や車両を「タダ」で借りられるため、赤字になりにくいという利点があります。

 こうして2014年、運行会社の四日市あすなろう鉄道が発足。2015年4月1日から公有民営方式の経営に移行しました。社名の「あすなろう」には「未来への希望(明日にむかって)」と「将来にわたり市民の皆様とともに育てていく鉄道」という思いが込められているといいます。また、狭い軌間の鉄道は英語で「narrow guage」(ナローゲージ)と呼ばれており、「なろう」と「ナロー」をかけています。

 四日市あすなろう鉄道による運行が始まってから、2018年で3年が経過。このあいだに利用者の増加を目指し、さまざまな改善策が実施されました。

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リニューアルされた内部・八王子線の電車。車体の塗装は青と薄緑色の2種類ある。
車内の座席は背もたれのある腰掛けに交換された。
車内に取り付けられた「四日市市」の銘板。車両を保有しているのは運行会社ではなく地方自治体だ。

 車両はリニューアルされ、老朽化が激しい部品を新しいものに交換。座席も背もたれがあるものに変更されました。さらに内部・八王子線では初めて冷房を搭載し、サービスの改善を図っています。車両を保有しているのは四日市市ですから、リニューアル費も四日市市が負担。四日市あすなろう鉄道は大金を出すことなくサービスを向上できました。

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コメント

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2件のコメント

  1. 23号から少し離れた町工場に私の御得意様がありまして、年末の挨拶には毎度利用してましたが、黒部峡谷鉄道のような感じでしょうかね?
    冬場の乗車でしたが冷房設備が無かったように思います。
    しかしながら複雑な経営改善策には脱帽ですね。
    車で23号や伊勢湾岸は利用しますが個人的には工業盛んなイメージを持ってますが鉄路の生き残りとなると課題が山積なのでしょうね。

  2. 公有民営化で5000万円の黒字で経営改善と言ってもあくまで従来の数億に上る赤字分を四日市市が補填しているだけなわけで、今後これをズルズル続けていくだけの覚悟が市と住民にあるんでしょうか。
    私も10年ほど前に住んでいましたが、駅の場所はわかりづらく、沿線も工場地帯から離れてますし揺れもきつく速度も遅いので乗客は高齢者メインに朝夕の学生がちらほらといった状態でした。ノスタルジーに浸れるところだけは良かったですけどね。
    車体も設備も老朽化してますから、(改軌して車両規格の共通化などに踏み込まない限り)市長が覚悟決めてBRTかガイドウェイバスにでも転換しとけば良かったような気がします…