四日市あすなろう鉄道が導入した「公有民営」光と影 「小さな鉄道」再始動から3年(写真64枚)

経営改善でも利用者減少の理由

 経営状況も公有民営方式の導入で変わりました。2015年度は約5000万円の黒字。線路や車両の維持費を払う必要がなくなり、その分経費が大幅に減ったためといえます。

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草に埋もれた狭い軌間のレールを小さな電車が走る(2018年9月26日、草町義和撮影)。

 しかし、この結果だけを見て安泰とはいえません。通常のきっぷで利用する客(定期外客)は増えましたが、定期券で利用する客(定期客)は大幅に減少。全体の利用者数は約308万人で、2014年度(約347万人)に比べ約1割減りました。割引がない定期外客の比率が上がったため、収入が増えただけなのです。

 利用者の減少傾向はいまも続いていて、2017年度の利用者数は300万台を割り込んで約282万人に。いくら定期外客の比率が上がっても全体の利用者数が減れば、いずれ経営が悪化してしまいます。

 定期客が減少した最大の原因は、公有民営方式の導入に伴う近鉄からの経営分離と考えられています。

 内部・八王子線から近鉄名古屋線方面に通勤、通学している人の場合、以前は近鉄1社の定期券を買うだけで済みました。しかし、内部・八王子線が近鉄から分離されたため、運賃体系が異なる2社の定期券を買う必要が生じ、実質的には大幅な値上げに。このため、内部・八王子線を使わずに自転車などで近鉄名古屋線の駅に直接アクセスする人が増えたようです。

 このように、内部・八王子線の公有民営化は経営改善とサービス向上だけでなく、サービス低下による利用者の減少を招いた面もあります。定期券に大幅割引の特例を設けて公有民営化前の発売額に近づけるなど、運賃面での改善が今後の課題といえるかもしれません。

 ただ、内部・八王子線の1日の平均通過人員(輸送密度)は2015年度で4090人。現在はこれより少し減っていると思われますが、地方の鉄道路線としては多い方です。数百人台の輸送密度が珍しくない過疎地のローカル線に比べれば恵まれています。この環境を生かして利用者を増やせるかどうかが、今後の焦点になりそうです。

【了】

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Writer: 草町義和(鉄道ニュースサイト記者)

鉄道誌の編集やウェブサイト制作業を経て鉄道ライターに。2020年から鉄道ニュースサイト『鉄道プレスネット』所属記者。おもな研究分野は廃線や未成線、鉄道新線の建設や路線計画。鉄道誌『鉄道ジャーナル』(成美堂出版)などに寄稿。おもな著書に『鉄道計画は変わる。』(交通新聞社)など。

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コメント

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2件のコメント

  1. 23号から少し離れた町工場に私の御得意様がありまして、年末の挨拶には毎度利用してましたが、黒部峡谷鉄道のような感じでしょうかね?
    冬場の乗車でしたが冷房設備が無かったように思います。
    しかしながら複雑な経営改善策には脱帽ですね。
    車で23号や伊勢湾岸は利用しますが個人的には工業盛んなイメージを持ってますが鉄路の生き残りとなると課題が山積なのでしょうね。

  2. 公有民営化で5000万円の黒字で経営改善と言ってもあくまで従来の数億に上る赤字分を四日市市が補填しているだけなわけで、今後これをズルズル続けていくだけの覚悟が市と住民にあるんでしょうか。
    私も10年ほど前に住んでいましたが、駅の場所はわかりづらく、沿線も工場地帯から離れてますし揺れもきつく速度も遅いので乗客は高齢者メインに朝夕の学生がちらほらといった状態でした。ノスタルジーに浸れるところだけは良かったですけどね。
    車体も設備も老朽化してますから、(改軌して車両規格の共通化などに踏み込まない限り)市長が覚悟決めてBRTかガイドウェイバスにでも転換しとけば良かったような気がします…