東北の高速バス事情 列車からバスへ継承された「夜行文化」、新幹線延伸でどう変わった
「伸びしろ」大きな東北の高速バス 新参の個性派も
東北の短・中距離昼行路線の状況を見ると、他地域と比べ地域内で強力なリーダーシップを発揮する事業者がいないことから、運賃の多様化やパーク&ライド環境整備など新しい施策が一部を除いて手つかずで、逆に言えば「伸びしろ」は大きいと言えます。北東北では、各都市の人口規模が他地域に比べて小さいうえ、都市間の距離も長く、また冬期は積雪に備えて交替運転手の乗務が必要な路線も多いため、昼行路線の「成功パターン」であるワンマンによる高頻度運行が困難だというハンディがあります。他地域の成功事例をよく研究したうえで、東北の環境に合った戦略を考える必要があるでしょう。
個別の事業者をみると、興味深い会社のひとつが桜交通(福島県)です。2002(平成14)年、乗合バスの規制緩和と同時に福島~仙台線へ後発参入しますが、高頻度運行がカギになる短距離路線では既存事業者の便数に対抗できず、すぐに撤退します。しかし、ウェブマーケティングの活用しだいで成果を出せる長距離路線(仙台~首都圏)に主戦場を移し、高速ツアーバス形態で参入し成功すると、他地域の同業者を買収するなどして、現在では全国規模の高速バス事業者に成長しました。
福島県では、東北アクセスも個性的な事業者です。もともと南相馬市を拠点とした貸切バス事業者でしたが、2011(平成23)年の東日本大震災以降、長期間不通となった鉄道の代替交通として南相馬~仙台線の路線バス事業に参入しました。高速道路の復旧や延伸により一般道経由を高速道路経由に変更するとともに、新たに南相馬~福島線、いわき線も新設し、一気に中堅規模の高速バス事業者に踊り出ました。2018年秋には、常磐道南相馬ICの正面に本社および営業所機能を移転。バスターミナルやパーク&ライド駐車場なども併設する交通結節拠点を開設しています。
また、岩手県北自動車、福島交通、会津乗合自動車らは現在、「みちのりホールディングス」(再生ファンド子会社の持株会社)の傘下にあります。老舗の乗合バス事業者ならではの地元における存在感、住民からの信頼と、最先端の経営手法との組み合わせが高速バス事業をどのように変えていくか、注目されます。
【了】
Writer: 成定竜一(高速バスマーケティング研究所代表)
1972年兵庫県生まれ。早大商卒。楽天バスサービス取締役などを経て2011年、高速バスマーケティング研究所設立。全国のバス会社にコンサルティングを実施。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員など歴任。新聞、テレビなどでコメント多数。
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