JRの駅に現れたのは私鉄の電車、どうしてこうなった? 飯田線と名鉄線の不思議な関係
複線の線路を半分ずつ所有
そこで愛知電気鉄道は、豊川鉄道との連携によって、豊橋駅に乗り入れることを考えます。
小坂井駅のひとつ手前にある伊奈駅から、豊川鉄道の豊橋方面の線路に接続する新線を建設。接続地点(現在の平井信号場)から現在の豊橋駅までは単線でしたが、愛知電気鉄道が並行して単線の新線を建設することで複線化し、2社が共同で複線の線路を使うことになりました。これなら、長い橋を含む複線の線路を建設するより安くなります。
豊川鉄道は愛知電気鉄道の提案に難色を示したものの、最終的には了承して協定を締結。1927(昭和2)年に工事が完成し、愛知電気鉄道の豊橋乗り入れと線路の共同使用が実現しました。
その後、愛知電気鉄道はほかの鉄道会社との合併を経て現在の名鉄名古屋本線に。豊川鉄道も国有化と国鉄分割民営化を経てJR東海の飯田線になりました。このあいだに名鉄の小坂井駅に接続する区間が廃止され、いまに至ります。一方、愛知電気鉄道と豊川鉄道の協定は引き続き維持。豊橋~平井信号場間はいまも線路の共同使用が続いており、下り線(南側)をJR東海、上り線(北側)を名鉄が、それぞれ所有しています。
ちなみに、この共同使用区間を走るのはJR東海と名鉄の車両だけではありません。たとえば2019年7月には、東京メトロ丸ノ内線の新型車両である2000系電車が走りました。
日本車輌製造(日本車両)の工場(豊川製作所)は飯田線の豊川駅近くにあり、同社で製造された車両の多くは、貨物列車扱いで飯田線の豊川~豊橋間と東海道本線を走って納入先の鉄道事業者のもとへ届けられます。そのため、年に何回かはJR貨物の機関車にけん引された各地の車両が、共同使用区間を走っているのです。
ちなみに、共同使用区間はJR東海道本線の線路が並走。船町駅と下地駅のホームからは、同線の旅客列車や貨物列車も見ることができます。
【了】
Writer: 草町義和(鉄道ニュースサイト記者)
鉄道誌の編集やウェブサイト制作業を経て鉄道ライターに。2020年から鉄道ニュースサイト『鉄道プレスネット』所属記者。おもな研究分野は廃線や未成線、鉄道新線の建設や路線計画。鉄道誌『鉄道ジャーナル』(成美堂出版)などに寄稿。おもな著書に『鉄道計画は変わる。』(交通新聞社)など。
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