事故発生時 なぜ関係ない列車も止まるのか? 過去の教訓から学んだ「防護無線」とは
改良される防護無線 でも大原則は停止すること
このとき、事故列車の車掌は防護無線の操作を試みましたが、事故車両が停電していたため作動しませんでした。実際には停電時でも予備の電源に切り替えて防護無線を使うことは可能でしたが、機械工学などの学会である、一般社団法人 日本機械学会が発行する『日本機械学会誌』No.1162には、乗務員教育が不十分で、正しい使い方を理解していなかったとの記述が見られます。そこで停電時には自動的に予備電源に切り替わり、特別な操作がなくとも防護無線を送信できるようにするなど、装置が改良されるきっかけとなりました。
また2007(平成19)年にはJR北海道で、故障した防護無線の誤作動により、一部の区間で5時間以上にわたって運転を見合わせるという事態も生じています。アナログ式の防護無線はどの列車が送信したか分からないため、送信した列車を特定することができずに、安全の確認に長時間を要してしまったのです。そのため現在では、どの列車が防護無線を送信したか特定可能な、デジタル式の防護無線の導入が進んでいます。
とはいえ列車が防護無線を受信したとき、乗務員はそう遠くない場所で発生していると見られる事象について、情報収集しなければなりません。関係ない路線であっても、それが関係ないと判明するまでは原則、列車を動かせません。これは先述した通り多重事故を防ぐためでもあり、鉄道において安全はすべてに優先されるのです。
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Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx
東急田園都市線二子玉川駅での防護無線を東横線が受信して最徐行で運転した事があります。
多摩川に沿って遠くまで届いてしまったのでしょう。
このように難点もありますが、位置や路線情報を乗せるなど複雑な方式にすると故障が怖いので単純な方式にせざるを得ないのですね。