V2ロケットとジャガイモの意外な関係 WW2期ドイツ製「弾道ミサイルの祖」失速のワケ

ドイツといえばジャガイモ料理で知られますが、WW2期にロンドン市民を恐怖のどん底に陥れた、当時のドイツ製最新鋭兵器とジャガイモが深い関係にあったことはあまり知られていないかもしれません。意外なその顛末を追います。

決戦兵器が使えなくなった意外な原因

 V2は直径1.65m、全長14mの大きさですが、機体の半分は燃料タンクが占めています。おもな燃料タンクは上下ふたつに分かれており、上には燃料のエタノール75%と水25%の混合液用で内容積5200リットル。下のタンクは酸化剤の液体酸素用で内容積4800リットルとなっています。

Large 20200528 01
V2製造工場で見つかった液体酸素用と思われるタンク(画像:ドイツ連邦公文書館)。

 V2の液体燃料ロケットエンジンは、この上下タンクから送られる燃料と酸化剤を混ぜて燃焼させることで推進力を発生させます。最大射程で、ロケットの燃焼時間は64秒間です。

 そしてこの、おもな燃料であるエタノールは当時、ドイツではジャガイモを蒸留して生産していました。いまでいうバイオマス燃料です。ではV2を1発飛ばすのにどのくらいのジャガイモが必要だったのでしょう。

 大まかな計算ですが、V2の燃料タンクを満たすのに必要なエタノールは、5200リットルの75%で3900リットル。アメリカ農業省の調査データでは、1リットルのエタノールを醸造するのにジャガイモ12kgから15kgが必要とされているので、1発飛ばすには46tから60t近いジャガイモが必要になります。アメリカ農業省のデータは現代のものなので、当時の醸造効率を考えると、もっと多くのジャガイモが必要だった可能性もあります。

 1944(昭和19)年以降、東部戦線でソ連軍が迫ってくると、ドイツ国内では東欧地域で収穫していたジャガイモ収量が減少します。食料不足のなか、決戦兵器だけに食べさせるわけにはいきません。ベジタリアンだったヒトラーにとっても、ジャガイモが食卓から消えるのは「耐えることはできない」はずです。こうしてエタノール生産は激減していき、ヒトラー期待の決戦兵器はジャガイモ不足をひとつの原因として無力化されました。

 しかしV2は現代の弾道ミサイルの元祖となり、核兵器と結びつくことによって政治的な戦略兵器に進化していきます。「このような兵器に人類は耐えることはできないであろう」というヒトラーの予言は的中したというわけです。

【了】

【写真】V2は兵器として実際どの程度だったのか ロンドン側の被害の状況 ほか

Writer:

1975(昭和50)年に創刊した、50年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

最新記事

コメント

記事ランキング

  1. 家族が「SSSS航空券」を引き当ててしまった…! 乗る前から“異変” 保安検査員も「Oh…」 誰でも起こり得る“緊迫の一部始終”
  2. ロシア軍の爆撃機が「真っ逆さまに墜落」 地上に激突する瞬間を捉えた映像が公開 “巨大な黒煙”が立ち上る
  3. “まるで高速”な無料バイパス「全線4車線化」へ変貌開始! 一部の上下線分離まもなく 対面通行を解消 国道8号
  4. 飛行中の「日の丸特別機」に粋なサプライズ! 天皇皇后両陛下を“最新ステルス戦闘機”がお出迎え
  5. 「危なすぎる!」阪神高速“中の人”がブチギレ!? “衝撃動画”とともに呼びかける「ドライバーが守るべき3つのこと」とは
  1. 家族が「SSSS航空券」を引き当ててしまった…! 乗る前から“異変” 保安検査員も「Oh…」 誰でも起こり得る“緊迫の一部始終”
  2. あと1年足らずで「現金でバス乗れなくなります」 全路線“完全キャッシュレス化”疑問に応えるサイト開設 京王バス
  3. ETCの手前で「ガシャン!」高速入口に吊るされた「黄色い鎖」の正体は? 傷つく覚悟で“あえてぶつける”超アナログな理由
  4. ロシア軍の爆撃機が「真っ逆さまに墜落」 地上に激突する瞬間を捉えた映像が公開 “巨大な黒煙”が立ち上る
  5. 「“再有料化”でいいから4車線化して」→普通車280円になって1年 利用者負担で勝ち取った“効果”あきらかに 八木山バイパス