V2ロケットとジャガイモの意外な関係 WW2期ドイツ製「弾道ミサイルの祖」失速のワケ

決戦兵器が使えなくなった意外な原因

 V2は直径1.65m、全長14mの大きさですが、機体の半分は燃料タンクが占めています。おもな燃料タンクは上下ふたつに分かれており、上には燃料のエタノール75%と水25%の混合液用で内容積5200リットル。下のタンクは酸化剤の液体酸素用で内容積4800リットルとなっています。

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V2製造工場で見つかった液体酸素用と思われるタンク(画像:ドイツ連邦公文書館)。

 V2の液体燃料ロケットエンジンは、この上下タンクから送られる燃料と酸化剤を混ぜて燃焼させることで推進力を発生させます。最大射程で、ロケットの燃焼時間は64秒間です。

 そしてこの、おもな燃料であるエタノールは当時、ドイツではジャガイモを蒸留して生産していました。いまでいうバイオマス燃料です。ではV2を1発飛ばすのにどのくらいのジャガイモが必要だったのでしょう。

 大まかな計算ですが、V2の燃料タンクを満たすのに必要なエタノールは、5200リットルの75%で3900リットル。アメリカ農業省の調査データでは、1リットルのエタノールを醸造するのにジャガイモ12kgから15kgが必要とされているので、1発飛ばすには46tから60t近いジャガイモが必要になります。アメリカ農業省のデータは現代のものなので、当時の醸造効率を考えると、もっと多くのジャガイモが必要だった可能性もあります。

 1944(昭和19)年以降、東部戦線でソ連軍が迫ってくると、ドイツ国内では東欧地域で収穫していたジャガイモ収量が減少します。食料不足のなか、決戦兵器だけに食べさせるわけにはいきません。ベジタリアンだったヒトラーにとっても、ジャガイモが食卓から消えるのは「耐えることはできない」はずです。こうしてエタノール生産は激減していき、ヒトラー期待の決戦兵器はジャガイモ不足をひとつの原因として無力化されました。

 しかしV2は現代の弾道ミサイルの元祖となり、核兵器と結びつくことによって政治的な戦略兵器に進化していきます。「このような兵器に人類は耐えることはできないであろう」というヒトラーの予言は的中したというわけです。

【了】

【写真】V2は兵器として実際どの程度だったのか ロンドン側の被害の状況 ほか

Writer: 月刊PANZER編集部

1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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