新型コロナ禍が最初に訪れた貸切バス苦境 新たな道模索 もう「昭和の旅行」じゃダメだ

インバウンド頼りも難しくなっていた貸切バス 新しい動きも

 ただ、小規模で法令順守の意識も乏しい事業者が増加したことで、大事故も相次ぎました。そこで、2014(平成26)年、安全面の規制が再強化されるとともに運賃・料金制度も改正され、「安売り」が禁止されます。制度改正の本来の目的は安全性向上の原資確保でしたが、事実上、皆で一斉に値上げできたことで、事業者の経営を安定させる効果もありました。

 その一方で、需要は減少を始めます。もともと、職場や町内会を単位とする「社会的な旅行」が下火になっていたのに加え、実質的な運賃値上げにより、旅行会社のバスツアーは格安を売りにできずコース設定数が減少。急増するインバウンドも、団体ツアーではなくFIT(個人自由旅行)が主流になり、高速バスや鉄道に流れました。そして2020年、新型コロナウイルスによる危機が訪れたのです。

 先行きは相当厳しい貸切バスの分野ですが、新しい動きも生まれています。外出自粛によりウェブ通販の市場が拡大した結果、物流センターの従業員が増加、その通勤を担う送迎業務の依頼が急増しています。路線バスや路面電車の、ラッシュ時の「密集」を避けるため、自治体らの費用で貸切バスを運行させ、乗客を分散させる例もあります。

Large 200619 kashikiri 03

拡大画像

新型コロナ対策を施したうえ、従業員送迎などの企業単位の貸切バスサービスを新たに始める会社も。写真は成田市を拠点とする東関交通のバス(画像:東関交通)。

 事業者自身の工夫も見られます。大型バスを改造したキッチン車両を使い、「自粛」期間中、地元の有名レストランなどとのコラボレーションにより「ドライブスルー・レストラン」として営業したクールスター(札幌市。札幌観光バスのグループ会社)や、ウェブ会議システム「Zoom」を使う「オンラインバスツアー」を企画し数々のテレビ番組で紹介された琴平バス(香川県琴平町)などです。南薩観光(鹿児島県南九州市)は、車庫で車両が眠っているタイミングだからこそと、多くの車両を連ね、地元の観光名所でプロモーションビデオを撮影しました。いずれも、逆境を逆手にとってブランド力を強化させた例です。

【写真ギャラリー】定員たった10名も! 小人数の高級貸切バス続々

最新記事

コメント

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。