アメリカ「自作飛行機」普及の意外なワケ 自分で組み立て、自らパイロット兼整備士

キットメーカーから完成機メーカーにステップアップした例も

 内陸部北部にあるミネソタ州のシーラス社は、ホームビルト機のキットメーカーとして1980年代にウィスコンシン州で創業しました。同社の飛行機は複合材料を主翼と胴体の両方に採用し、洗練されたデザインが特徴ですが、キット機メーカーの技術を活かして完成機メーカーへと脱皮を図っています。

 この転身により、シーラス社は現在、単発プロペラ機と単発ジェット機を生産しています。プロペラ機の「SR20」シリーズは、先進的な空力デザインにより、固定脚でありながら引き込み脚に匹敵するほどの速度性能を誇るのが特徴です。また墜落時の死亡事故を抑制するため、機体背部にパラシュートを装備するのが特徴で、単発機としては王者セスナ社を抜いてベストセラーの地位を確立しています。

Large 201210 kitplane 03

拡大画像

ランスエア社のホームビルト機「ランスエアIV」。大人4人が乗ることが可能(細谷泰正撮影)。

 なお、高性能と高い安全性からアメリカ空軍士官学校では「SR20」を練習機として採用。日本の航空大学校もシリーズのひとつ「SR22」を練習機として用いています。

 このように、いまやホームビルト機は航空機大国アメリカには不可欠の存在にまでなっています。当初はホームビルト機として開発された機種であっても、のちに高性能な完成機として生産される事例も前出のようにあり、ホームビルト機メーカーとして創業した会社が航空機産業を牽引する存在になっているケースも見受けられます。

 なお、アメリカでここまでホームビルト機が発展した要因のひとつには、新しい技術を果敢に取り入れる文化があり、それを支え発展させる制度が充実している点が挙げられます。このことが、航空機大国アメリカを支える大黒柱であるといえるのではないでしょうか。

【了】

【写真】キットとは思えない! 様々なアメリカ製ホームビルト機たち

Writer: 細谷泰正(航空評論家/元AOPA JAPAN理事)

航空評論家、各国の航空行政、航空機研究が専門。日本オーナーパイロット協会(AOPA-JAPAN)元理事

最新記事

コメント

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。

1件のコメント

  1. 40年以上前に、エンジン抜きのキットが1200万から、と読みました。それと自作機かどうかはわかりませんが冷戦下で欧州線が立ち寄ったアンガレッジの空港に多くの小型機が止められていました。大切な移動手段なのでしょう。