「雪風」映画で艦長ですら一目置く「先任伍長」ってナニ? 「軍隊の鉄の掟」すら凌駕するその存在とは

映画『雪風 YUKIKAZE』では、玉木宏さん演じる先任伍長・早瀬幸平が皆に尊敬される存在として登場します。先任伍長とはそれほど重要な役職なのでしょうか。

『雪風 YUKIKAZE』で玉木宏さんが演じる人物

 終戦80周年となる2025年8月15日、映画『雪風 YUKIKAZE』が公開されます。同作は、史実をベース、戦時中に“幸運艦”と呼ばれた駆逐艦「雪風」とその乗組員たちにスポットを当てた作品です。

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賠償艦として接収される直前の駆逐艦「雪風」(画像:アメリカ海軍)

 作中には個性的な人物が数多く登場しますが、なかでも強い存在感を放っているのが、玉木宏さん演じる先任伍長・早瀬幸平です。彼は、奥平大兼さん演じる若き水雷員・井上壮太の兄貴分として登場し、水兵や下士官を束ねる立場でありながら、竹野内豊さん演じる艦長・寺澤一利をはじめとする士官たちからも一目置かれる存在として描かれています。

 劇中では、「先任伍長」である彼が、上官である水雷長や砲術長と並んで艦の方針について話があったり、艦長から直接意見を求められる場面もあります。軍隊というと「上官の命令が絶対」「上官が黒と言えば黒」という上下関係の厳しい世界というイメージがありますが、それでも早瀬先任伍長が特別な扱いを受けているのはなぜでしょうか。

 実は「先任伍長」という階級は、旧日本海軍には存在しませんでした。しかしながら、創作上の架空役職ではなく、実際に現場で“役職”として機能していたポジションでした。

 多くの場合、その艦艇での勤務年数が長く、経験豊富な上等兵曹(下士官)が、事実上の“先任伍長”として下士官のまとめ役を担っていました。

 旧海軍では航海分隊・砲術分隊・水雷分隊など、各分隊に熟練の兵曹が配置されており、便宜的にそれらをまとめる人物を陸軍のように「○○分隊伍長」と呼んでいたのです。早瀬はその中でも水雷分隊をまとめる伍長であり、かつ最古参であったため「先任伍長」として全艦の下士官を束ねる立場にあったと考えられます。

 先任伍長は、下士官や水兵たちのリーダーであり、規律や風紀の維持、訓練・指導などを担う役割です。また、現場の状況を最もよく知る者として、艦長や士官に助言することもあり、艦内の調整役として大きな存在感を放ちます。

 階級的には下士官ですが、役職的には士官に準ずる扱いを受け、直接的な指揮権こそ持たないものの、実際に現場で兵に指示を出し、作業や戦闘行動を統率するのはこの先任伍長です。劇中でも、魚雷や爆雷の準備・発射、沈没艦からの乗員救助などの重要任務を、早瀬が主導して遂行していました。

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