『エヴァ』もう一つの聖地・宇部新川駅 庵野作品に溢れる地元愛を体感 鉄道も見どころ

もともと「宇部駅」だった宇部新川駅

 いまでこそ『エヴァ』の聖地となっている宇部新川駅は、その歴史も注目です。もともと山陽本線が宇部市中心部から5km以上北西側に外れていたこともあり、地元の有力者たちが設立した宇部軽便鉄道(のちに宇部鉄道、現在のJR宇部線)の駅として、1914(大正3)年に開業しました。

 宇部鉄道が戦時中に国有化されると、宇部新川駅は以来20年ほど「宇部駅」を名乗り、現在の山陽本線・宇部駅が「西宇部駅」を名乗っていたことからも窺えるように、この駅は人口16万(2021年現在)を擁する宇部市の中心街にほど近い場所にあります。宇部線と小野田線(起点は1駅隣の居能駅)の列車が発着するほか、駅前や近隣のバスターミナルからは宇部市交通局(市バス)、サンデンバス、船木鉄道バスが走っており、移動の選択肢はとても豊富です。

 周辺には、前述した宇部興産をはじめとする多くの工場が立地し、西隣の山陽小野田市とともに国内有数の工業地帯として発展してきました。街中の飲食店はデカ盛り・ガッツリ系のメニューが充実し、巨大なドライブインもあるなど、いまも続くその活気を感じ取ることができます。

 工業地帯に置かれた宇部新川駅も、かつては電車区(運行上の拠点)が置かれ、石灰石を輸送するホッパ車(バラ積み貨物輸送用の貨車)が多く駐在するなど、宇部線最大の拠点として長らく重要な役割を果たしてきました。しかし1982(昭和57)年に「宇部興産専用道路」が全線開通し、同社の貨物輸送がそちらに切り替えられたこともあり、宇部新川駅の貨物営業は廃止され、現在は旅客列車のみの扱いとなっています。

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宇部新川駅の外観(宮武和多哉撮影)。

 現在は宇部線の利用者数が落ち着いていることもあって、2019年には軌道を撤去しBRT(バス輸送高速システム)を導入する案が検討されましたが、山口県内の他路線と比較しても輸送密度が高いこともあり、具体的に話が進みませんでした。宇部線は、沿線に比較的大きな町が多いものの、全線が単線かつ「宇部岬」を回り込むためカーブを描く線形がネックとなり、あまりスピードアップできないのが課題といえそうです。

 なお、箱根や宇部以外に『シン・エヴァ』に登場する“聖地”として、天竜浜名湖鉄道の天竜二俣駅も作中シーンのモチーフになっているといわれています。

【了】

【写真】『エヴァ』に登場する宇部新川駅と宇部の街

Writer: 宮武和多哉(旅行・乗り物ライター)

香川県出身。鉄道・バス・駅弁など観察対象は多岐にわたり、レンタサイクルなどの二次交通や徒歩で街をまわって交通事情を探る。路線バスで日本縦断経験あり、通算1600系統に乗車、駅弁は2000食強を実食。ご当地料理を家庭に取り入れる「再現料理人」としてテレビ番組で国民的アイドルに料理を提供したことも。著書「全国“オンリーワン”路線バスの旅」など。

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