米軍「格安で戦闘機買わない?」空自が断ったワケ 在日米軍エースF-102A「デルタダガー」

果たして「お得な買い物」だったのか?

 しかしF-102Aそのものが安く買えるといっても、予備部品や整備用治具などは新たに必要であり、追加コストが掛かることは明白でした。しかも中古機なので維持コストは年々上昇することも考えられます。専門教育を受けたパイロットや整備員も確保する必要があります。

 とはいえ「生みの親」であるアメリカ空軍からの提案。航空自衛隊も数か月悩んだようですが、最終的にはその提案を断りました。結果、1965(昭和40)年までにF-102Aは日本の空から姿を消したのです。

 しかしF-102Aを改めて見直してみると、実は導入しなくてもよい機体だったようです。なぜなら、大きく重い機体に対しエンジンパワーが小さいため、迎撃機としての基本性能が全般的に低く、加えて電子機器の開発も遅れたことから、ウエポンシステムとしても不完全なものでした。

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もし日本が導入していたらという想定で描かれた航空自衛隊仕様のF-102A「デルタダガー」戦闘機(リタイ屋の梅作画)。

 なお、アメリカ空軍ではのちに、F-102A「デルタダガー」の弱点をすべて改良した防空戦闘機の決定版としてコンベアF-106「デルタダート」がデビュー。さらに多用途戦闘機マグドネルF-4「ファントムII」が登場したことなどにより、1960年代にはF-102Aの地位は急速に低下しています。

 さらにF-102Aは、性能や装備品の関係で敵爆撃機に対する迎撃戦闘以外の任務には運用できない機体でした。F-104も事故が多いなどの問題はありましたが、西ドイツ(当時)が爆弾や対艦ミサイルを運用するなどして、防空戦闘機や戦闘爆撃機というかたちで幅広く運用しているのと比べると、機体としての使い勝手はよくなかったと思えます。

 予算も人員も余裕のなかった当時の航空自衛隊が、もしF-102Aを導入していたらどのような結果を招いたでしょう。

 日本も自衛隊も貧しかった1950年代には、当時最新鋭の対潜哨戒機ロッキードP2V-7「ネプチューン」の新品を惜しみなく供与してくれたアメリカ。その後も、在日米軍で余剰となった戦闘機F-86D「セイバードッグ」なども無償で供与してくれています。しかし、以降は無償供与/貸与はほぼなくなり、FMS(対外有償軍事援助)を含む有償での供与がほとんどになりました。

 改めて当時を振り返ってみると、1960年代以降の日本の高度経済成長と、アメリカのベトナム介入の陰が、両国間のミリタリーバランスにも「変化」を生んだのかも知れません。

【了】

【Uの字形の操縦桿!】特徴的なF-102A「デルタダガー」のコックピットほか

Writer: リタイ屋の梅(メカミリイラストレーター)

1967年生まれ。「昭和30~40年代の自衛隊と日本の民間航空」を中心に、ミリタリーと乗りもののイラスト解説同人誌を描き続ける。戦後日本史も研究中。

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コメント

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2件のコメント

  1. photo2の4機編隊は垂直尾翼の形状からデルタダートでは?

    • ご指摘ありがとうございます。修正(削除)しました。