「カスピ海の怪物」北方領土へ 西側世界をザワつかせたその正体と果たした重要な役割

成功したとはいえないエクラノプランが果たした大きな役割

 ちなみに「WIGは結局、船舶なのか航空機なのか」という問題について、「海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約」には船舶に該当するとされていますが、未確定部分も多く、国際海事機関が高速船の規則を基に法的扱いを検討中という段階です。かつてはソ連でVVA-14という「海面を滑空する能力を有し水上発進可能で通常の長距離飛行も可能な垂直離着陸機」も計画、試作されたことがあり、この問題の複雑さをうかがわせます。なお、ロシアでは独自のカテゴリーとして扱われ、エクラノプランとして適用される国内の法的規則があります。

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モスクワのモニノ空軍博物館で展示(放置)されていたWIG試作機ベリエフVVA-14(左端)垂直離着陸試験を前に計画は頓挫した(2004年2月11日、月刊PANZER編集部撮影)。

 2021年現在でもWIGの建造は行われており、個人で所有できる民間船もあります。アレクセエフ水中翼船中央設計局によると、民間船以外にもロシア軍やインドなどからの引き合いがあるそうですが、軍用に関しては一切、情報を出していません。

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2021年5月15日撮影、ニジニーノヴゴロドのクラスノエ・ソルモヴォ造船所に入っているルン級。どのくらい修復が進んでいるかは不明(画像:Google Earth)。

「カスピ海の怪物」は、冷戦期CIAの諜報活動にもかかわらず正体がつかめず、謎のベールに包まれつつその「カスピ海の怪物」という名前だけが有名になって、ソ連の脅威を示すものとされました。大型のエクラノプランであることが判明したのは1980年代後半になってからですが、それまでのあいだ、実際には使い物にならなかったのにもかかわらず謎のベールに包まれた「押しの強いハッタリ」だけで西側の関心を引き、一定の戦略的な役割を果たしました。

 ロシアが日本と係争中(ロシアは係争中という立場はとっていない)の北方領土に、エクラノプランによる高速交通網を構築しようという話は、北方領土問題でロシアの主張をアピールするのが目的で、運用効率などを考慮すれば実現性は低いように筆者(月刊PANZER編集部)は思います。21世紀になっても「怪物」は、技術ファクターよりも政治ファクターを優先する戦略的役割を担っているようです。

【了】

【画像】1988年当時の「カスピ海の怪物」アメリカ側想像図

Writer: 月刊PANZER編集部

1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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1件のコメント

  1. 海洋生物との衝突によるダメージは水中翼船より少ない…かも?