宇宙ステーションで事故、どの国の法律適用? 実はある国際ルール 野口宇宙飛行士に聞く

電力すら国ごとに仕様が異なるISSモジュール

 「クロス・ウェーバー」自体は、宇宙関係の法令や条約ではしばしば見られる考え方です。日本の宇宙基本法もこの考えを盛り込んで制定されています。たとえば、ロケット打ち上げ失敗で人工衛星が失われた場合を考えてみましょう。

 通常であれば、人工衛星を製造したメーカーなどがロケット打ち上げ会社に損害賠償を請求することになりそうですが、「クロス・ウェーバー」に基づくと、あらかじめ打ち上げ契約書などに「事故が起きても互いに責任追及しません」という文言を入れ、自分の損害は自分で責任を持つ約束で進めます。

 なぜこうなっているかというと、宇宙開発を積極的に進めていくために、失敗時の損害リスクを少なくして障壁を下げるという基本政策があるのです。

 もちろん、これだけだと失敗時にお互い大きな損害をこうむります。商業衛星だと数百億円という単位です。ロケットが失敗し、万一陸上に落ちてしまった場合のリスクもあります。事故が起こった場合の賠償の基本的な考えは宇宙損害責任条約で取り決めており、これに対応する国内法として人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(平成28年法律第76号)が整備されています。この法律ではロケット落下事故に備えた保険をかけるのが義務化され、想定されるリスクに備えています。

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作業手順の確認をする野口宇宙飛行士(画像:JAXA/NASA)。

 野口宇宙飛行士は最後に、安全対策や訓練についても話してくれました。国際宇宙ステーションは参加各国がそれぞれの担当部分を製造しているため、大小さまざまな仕様の違いがあります。電力ならば、ロシアが担当した部分は直流28V、他の部分は直流160Vで供給され、それぞれの装置などで必要な電圧に変換して使っています。たとえば日本の「きぼう」モジュールでは直流120Vに変圧しています。

 人間にかかわる部分ならば、ソユーズ宇宙船とクルードラゴンはドッキング装置の形状が異なりますし、船外活動に使う宇宙服についても、アメリカが開発した船外活動ユニット(EMU:Extravehicular Mobility Unit)と、ロシアのオーラン宇宙服がともに使われています。

 このように宇宙服や宇宙線の規格からして各国でバラバラのため、原則は「クロス・ウェーバー」の考え方で統一し、あとはシステムごとに使い方、トラブルが起きた際の対処方法を定めて個々人がしっかりと訓練し、頭に叩き込み、さらに作業前には充分な予習と手順確認をするという形で行っているといえるでしょう。

【了】

【イラスト解説】米ロの宇宙服を見比べ

Writer: 金木利憲(東京とびもの学会)

あるときは宇宙開発フリーライター、あるときは古典文学を教える大学教員。ロケット打ち上げに魅せられ、国内・海外での打ち上げ見学経験は30回に及ぶ。「液酸/液水」名義で打ち上げ見学記などの自費出版も。最近は日本の宇宙開発史の掘り起こしをしつつ、中国とインドの宇宙開発に注目している。

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