高速バスで密避け通勤、新路線もっと増える? 開設の条件とは【高速バス新潮流・短距離路線】
必要なのは「ウラ」の需要
通勤通学需要の比率が大きい短距離路線の課題は、まず収益性です。片道1時間半くらいの路線だと、一人の乗務員が1日にだいたい2往復できるのですが、朝の上りと夕方下りに需要が集中するため、その折り返し便が「カラ」で走ることになってしまうのです。
客単価で見てみると、片道3時間程度の中距離路線では1日に1往復しかできないものの、乗客ひとり当たり片道3000円程度を見込めるのに対し、1時間半の路線だとだいたい1000円強。これで、乗務員と車両は2往復しながら、そのうち昼間の1往復が回送に近い乗車率だと、なかなか黒字になりません。
それを補完するのが、観光客など逆方向、いわゆる「ウラ」の需要です。たとえば銚子~東京線は、乗車率の低い午前下り、午後上りの一部の便を、中間地点にあたる酒々井IC近くのアウトレットモール経由とし、都内から向かうショッピング客の需要を取り込んでいます。佐賀~福岡線は、折り返し便の一部を、鳥栖IC近くのアウトレット行き直行便に振り向けています。
三田~大阪線の場合、三田周辺にはアウトレットに加え関西学院大学のキャンパスもあって、通学需要をも掴んでいます。ほかに、京浜急行バスのエリアである神奈川県横須賀市の電力中央研究所のように、郊外に大きな事業所がある場合も同様です。
その意味で、成田、羽田の両空港のほか、東京ディズニーリゾートや木更津のアウトレットなど狭いエリアに多様な目的地を抱える京成バス、京浜急行バスらは、短距離路線の運用を組みやすい事業者と言えるでしょう。
コロナ禍において長距離の移動が控えられたなか、通勤通学需要に支えられた短距離路線の落ち込みは、高速バス業界の中ではマシな方と言えます。さらに、冒頭で触れた柏の葉キャンパス~東京駅間のような新路線も目立ちます。他路線の運休により車両と乗務員に余裕がある上に、在宅勤務が増え会社員が鉄道の通勤定期を購入しなくなると、オフィスに出社する日には鉄道と高速バスを使い分けることも容易になるため、新路線開設のハードルは下がっています。
もっとも、通勤経路は習慣性があるため、多くの人は急には変えません。朝の出社時はバスの時刻に合わせて家を出ることもできますが、退社時刻はバラバラなので、特に夕方下りは便数確保も重要です。需要を探りながら柔軟にダイヤやルートの改正を重ねつつ、忍耐強く顧客の定着を待つ努力も求められています。
【了】
Writer: 成定竜一(高速バスマーケティング研究所代表)
1972年兵庫県生まれ。早大商卒。楽天バスサービス取締役などを経て2011年、高速バスマーケティング研究所設立。全国のバス会社にコンサルティングを実施。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員など歴任。新聞、テレビなどでコメント多数。
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