戦車はネックの「市街戦」を生き残れるか 様変わりした戦争で各国戦車の対応は…?
一方ロシアは戦車であることすらかなぐり捨てた
特異なのがロシアの戦車支援戦闘車(BMPT)で、非通常戦に対応した新カテゴリーともいえる異形戦車です。戦車を掩護する戦車という微妙なコンセプトで、ロシア国防省は「BMP-Tは戦車でも兵員輸送車でもなく、ヨーロッパ通常戦力条約締結の時点で存在しなかった新カテゴリーの兵器なので、同条約には規定されず、報告の義務も保有数の制限も無い」と主張しています。
コンセプトは、味方戦車に随伴して敵歩兵を制圧することです。ベースとなったのはT-72戦車ですが、持て余し気味の125mm主砲はきっぱり取り外し高い角度でも狙える30mm 2連装機関砲を搭載、ミサイルも装備しますが燃料気化爆弾とかサーモバリック爆薬といわれる弾頭も装備でき、対戦車用というより対人戦闘用です。もちろん、機動力と防御力は戦車と同等。意表を突くアイデアですが、ロシア軍はいまのところ、少数を取得しているだけのようです。
市街戦の新戦術も編み出されています。シリア政府軍は市街戦に戦車や歩兵戦闘車を投入していますが、使い方が独特です。戦車はじりじりと歩兵の盾となりながら進むのではなく、高速で前進と後退を繰り返す「槍突き」のような戦術です。歩兵戦闘車は戦車が突く道路の両側の建物の1階に横付けして歩兵を送り込み、下車した歩兵が1、2階を掃討して戦車の突進を支援します。待ち伏せ奇襲を回避し戦車の被害を抑えられる戦術として、視察したロシア軍も評価しているようです。
非通常戦でも戦車独特の「圧」による抑止効果はあるでしょう。テロリストや暴徒は素人も多く、戦車が1台鎮座していれば襲撃を諦めるかもしれません。携帯対戦車火器も携帯できるとはいっても重くかさばり、戦車に命中させるには強いメンタルも必要です。兵器の根本価値は実際に使われることではなく、存在して抑止効果を発揮することにあります。必ずしも最強とはいえない戦車が、不要にならない理由のひとつです。
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Writer: 月刊PANZER編集部
1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。
動画配信サイトの影響で戦車の実戦映像を一般人も見る事ができるようになったのは影響があると思う