ロシアなぜ制空権とれない? 圧倒的空軍力を破るウクライナ式“東西融合”防空システム

ソ連式とNATO式、両方を体得したウクライナ軍

 ただ、旧ソ連にとって幸いなことに、当時はミサイルの誘導技術が急速に進歩していた時期でした。そこで、味方の戦闘機による防空に加えて、機甲部隊に移動式地対空ミサイルを随伴させることで、防空能力をいっそう強化しようと考えます。

 こうして旧ソ連は、この「移動式防空の傘」を、高・中高度防空ミサイルによる「最も大きくカバーできる傘」、その傘の内側を守る短距離防空ミサイルの「中ぐらいの大きさの傘」、そしてさらに内側を守る自走対空機関砲などによる「個別にさす傘」という、念入りな防空システムを構築。実戦下における「赤いスチームローラー」は、この幾重にもカバーする「移動式防空の傘」をさした状態で行動するようにしたのです。

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訓練で実弾を射撃するウクライナ空軍のS-125「ネヴァー」(SA-3「ゴア」)地対空ミサイルシステム(画像:ウクライナ国防省)。

 東西冷戦の時代、ウクライナは旧ソ連邦を構成する15の共和国のなかでも屈指の主要国であり、軍需産業も盛んでした。ゆえに、同国が旧ソ連の軍事ドクトリンに精通しているのは当然といえます。また、ソ連崩壊後もウクライナは新生ロシアと近しい関係にあったため、技術的進歩によって徐々に変化する「ロシア型移動式防空の傘」の内容について、比較的新しい情報まで把握することができていました。

 しかし2014(平成26)年にロシアがウクライナの一部であるクリミアに侵攻したことで、外交関係は悪化します。そのうえ国力の差からロシアに屈せざるを得なかったウクライナは、以降、NATO加盟国を中心とした西側諸国との連携を強化。防空に関しても「NATO方式」に接するようになりました。

 その結果、ウクライナは熟知する「ロシア方式」に加えて、それとは異なるドクトリンに依存する「NATO方式」の防空への理解も深めたのです。

 だからこそ、今回のロシア軍の侵攻に際して、ウクライナはロシア式とNATO式双方の装備や戦術を駆使して防空戦闘を有利に展開できたのではないでしょうか。筆者(白石 光:戦史研究家)個人の意見としては、これがウクライナ善戦のひとつの要因だと考えます。

【了】

【射撃シーンも】ウクライナ軍が保有する様々な地対空ミサイルたち

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Writer: 白石 光(戦史研究家)

東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。

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コメント

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2件のコメント

  1. その「ロシア方式」と「NATO方式」の防空システムの違いについて説明してよ…
    「ロシア方式=旧ソ連式?」は複数層でカバーする移動式防空の傘らしいけど、じゃあ「NATO方式」の防空システムはどうなっているの?

    • おっしゃる通り